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第1章
お葬式の日、私はとても素敵な人に出会ってしまった。
不謹慎と言われるかもしれない。
でも喪服を着ているあの人はこの場に居る誰よりも輝いている。
こんなに心がときめくなんて初めてなの。
自分でもどうして良いのか分からないくらい。
知らぬ間に私の目は彼を追っていた。
もう帰ってしまうの?
そう思っていると、私の視線に気づいたのかこちらをチラリと見て会釈してくれた。
「あの人、旦那さんが追っていた事件を調べなおすらしいわよ」
いつの間にか隣の家の松下さん家の奥さんが私の隣に立っていた。
小太りの、いかにも中年おばさんで、いつも汗臭い匂いがする。隣に立たれるのは不愉快だけど、なんで松下さんの奥さんがそんな事知っているの?
「どうやらかなり残酷で悲惨な殺人事件だったみたいじゃない? 旦那さんも、もしかしてその犯人に?」
虫歯になっているガタガタの歯並びを嬉しそうに見せ、ニヤニヤと笑う奥さんは気持ちが悪いわ。
なんでそんな事言うの? なんで松下さんがそんな事知っているの?
「まぁ私は噂好きのおばさんって所だからね。情報収集は得意なのよ」
また自慢げにガタガタの汚い歯を私に向かって見せる。
やめて。
虫唾が走るわ。
「あの男の人も殺人事件を追って危ない目に合わなければいいけどね」
大丈夫よ。あんな素敵な人だもの。危ない目に合うわけがないわ。
それよりも彼の名前も年齢も分からないわ。
どうしたらまた彼に会えるのかしら。
あぁ。そうだわ! 私なんて頭がいいのかしら。
そうよ。そうだわ。
彼から私を追いかけるように仕向ければいいんじゃない。
彼から追ってくれるなんて考えただけでゾクゾクしちゃう。
さぁーてと。
誰を殺そうかしら。
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