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「いいじゃないか」
編集長の反応は意外なものだった。いつもお前は爪が甘いと最初から怒られるのに。三春は内心、浮ついた気持ちでいっぱいだった。
「だが被害者の蓮沼まりの事もっと詳しく乗せたほうがいいんじゃないか」
「ですが、遺族の方が良く思われないのではないのでしょうか」
読者が面白いネタならいい。そう思う反面、被害者側の事は公にするのは気が引ける。
遺族だってストーカーされた上に猟奇殺人されてしまった事なんて思い出したくもないだろう。三春はそう考えていたが、編集長は顔を歪めた。
「お前はやっぱり爪が甘いんだよ。もっと深く探らないと面白くないだろう」
三春が再度遺族について抗議しようと口を開いた瞬間、先に声を出したのは編集長だった。
「蓮沼まりには遺族は居ない。両親もとっくに亡くなっている。蓮沼まり自体どういう女だったか知るものは居ないそんなミステリアスな女だ。自分を殺した男にノートいっぱいに名前を書かせ、死に追いやった女。より読者がそそられるだろう。ほら。もう一回出直せ」
原稿をつき返され、三春はそのまま自分のデスクに戻った。
蓮沼まりがどういう人物だったかなんて知っている人が居ないんじゃ調べようがないじゃないか。そう思いながらも三春は携帯を耳に当てた。
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