668人が本棚に入れています
本棚に追加
あたしが過去を振り返っていて時間も忘れかけていたその時だった。
「…優恵香…?風呂沸いたから入れよ。食器は洗っといたから。」
部屋の閉められた扉の向こうから聞こえてくるのは満希の声。
…もうそんなに時間が経っていたのかと時計に目をやる。
普段は明るくふざけてばかりの満希も、あたしが長い間部屋に籠もると、いつも苦しそうな寂しそうな顔をするのだ。
気合いを入れて、両頬に手をぺちっと叩いてみる。
大丈夫っ。苦しいのはあたしじゃない。心を痛めてるのは満希だ。
「みーきっ。食器ありがとうねっ。たまには一緒に入るー?」
すでに背を向けて歩き出していた満希にそう声をかければ、満希はやっぱり、なんとも言えない顔をしていた。
だけど、すぐに悪戯っこの様な笑みを浮かべる。
「その年で兄貴と一緒に入るとかバカじゃねえの?」
微妙に目を逸らして早口でそう言う満希はどうやら、照れてるらしい。
「ふふっ。そんな顔で言っても、全く説得力ないよ。」
そんな満希を横切り、あたしは真っ直ぐに浴室へ向かう。
あたしと満希はこれでいい。満希に暗い顔は似合わない。
あたしが、笑ってさえいれば、きっと満希も笑ってくれるから。
無駄な心配をもうかけたくはない。
最初のコメントを投稿しよう!