終戦 戦争が終わったら………

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 救護テントから脱出後、指令部施設へと足を運ぶ大呀。中に入れて貰うと、もう既に撤退準備を始めており機材のほとんどが片付けられていた。 作戦立案に使うテーブルの隣、パイプ椅子をちょっとグレードアップした感じの椅子に学長がどっかりと腰を降ろして煙草を吸っていた。 「む、カンナギか。ご苦労だったな。いや、すまない。この戦いお前がいなかったら勝ちは見えなかった。改めて礼を言おう。それより怪我は大丈夫か?」 「激しい運動は控えるようにと言われました(大嘘)」 「そうか。大事なくて何よりだな。全体帰還命令を出すところだ、10分後に第1輸送ヘリが飛ぶ。それに乗って帰れ」 「了解っす。そんじゃ失礼しやした~」 学長もかなり疲れているのは見て取れた。話を長引かせないようそうそうに切り上げて外へ。ヘリポートまで歩を進めると既に複数の生徒が待機していた。 「あ、やっぱり来た」 「やっぱりおった」 その待機列には千咲はもちろんアルベルト姉妹やリンの姿も。 「チサキの言う通りホントに来たよ……」 リンは夜中の猫のように目を丸くしている。 シェリカもやはり驚くしかない。 即席の前線基地とはいえ決して狭いとは言い難く、人も多いため、通信が取れない場合人一人探すのも手間が掛かる。カンナギが救護テントから脱走したという報せが入った時、すぐ捜そうと提案した。 「大丈夫よ。どうせ学長さんとこ行ってからこっち来るから」 とチサキが事も無げに言う。シェリカも半信半疑だったがチサキはなんとも落ち着いており(戦闘の緊張が解れた瞬間に口元を抑えて物陰に隠れたことはタイガに言わないでと口止め)通信機器を使っての確認もしていなかった。 シェリカとリンもこういう戦場には慣れてるとはいえ通信で部隊と連絡を取り合い合流する。 だがカンナギとチサキは違う。 なんの指合もない。なんの事前連絡もしていない。二人の「やっぱり」という言葉。何も言わずとも計らずともお互いの位置、行動を把握しているに他ならない。 リンもたまらず口を開いた。 「やっぱ付き合ってんでしょ」 『だからないって』 そしてハモる。 もう付き合うを超して熟年の夫婦、阿吽の呼吸、つーかーの仲。カンナギが「おい」と言えばチサキが「はいはい」と爪切りをノールックで投げ渡す感じの。カンナギも背中に飛んできた爪切りを勿論ノールックでキャッチするレベルで。 逆にそんな曲芸見てみたい。まあ、カンナギとチサキならやりかねんが。 「なあ、だいたい運動会の翌日って休みよな?」 「戦争を運動会レベルにしてもらっちゃ困るが、戦闘参加生徒は3日~1週間休暇を貰える。………中々いないが単位が足りない者は明日も授業を受けることになる」 シェリカの説明を聞いてから一同がリンを見た。 「何よ単位ぐらいギリギリ取ってるっての!何よその目は?!!」 「そうだな。早く帰って休みたいところだな。今回は中々に骨が折れる戦いだった。数本ヒビは入ってるがなっ」 ハッハッハとシェリカの姉エルザがジョークを交えて笑って、「痛っつつ……」なんとも痛そうに患部を擦っている。 疲れもあってか頭が馬鹿になってるらしい。 ヘリ後部のハッチが開いたので乗り込む。ローターが回転を上げ砂埃が舞う。誘導の合図でヘリのタイヤが地面から離れ徐々に高度を上げていった。 以前のヘリの知識としてヘリのなかでは大声で喋ってるイメージがあったが、ハッチが閉まるとなんとも中は静かなもんである。ローターの回転音も僅にしか聞こえない。聞けば防音魔法が施されているとか。 ほほうと感心していると両肩にコテンと重みが。左がエルザで右千咲。左を見ればエルザの左肩にはシェリカの頭で、右を見れば千咲の右肩にリンの頭。 「………………………。」 重ぃ~んだよ!って両肩を思い切り上げたい気持ちを今だけは堪えた。ドミノ倒しがあればドミノ起こしがあってもいいじゃないか。 誰かやんねーかな? やんねーか  ヘリに揺られること数十分。一定のリズムの揺れのせいかだんだんと眠気が増してくる頭でふと気が付いた。 なんで転移魔法ではないのか? こんなん乗って帰らんでもひとっ飛びやん。確かに俺ら二人に関しては転移魔法が苦手ではある。しかしながら早く帰れるのであれば帰りたい。それを聞こうにもアルベルト姉妹もリンも寝てるし、というか反対側の席を見ても全員寝ている始末。暇なので携帯端末を取り出した。 「お、Wi-Fi繋がった」 機内の壁面にコードが書いてあったので入力してみた。何これ親切過ぎて逆にセキュリティ疑う。 「周回しとこ」 暇さえあればスマホ開いてソシャゲ周回。このあたり大呀も一端の現代っ子であった。ソシャゲに夢中だった大呀も疲れて寝ている千咲もわからなかったが、機体の高度が徐々に下がっていることに気付きアルベルト姉妹とリンが同時に跳ね起きた。 「ん?」 反対の座席を見ても皆目を開けていた。もう学校着くのかと大呀は思ったが、皆の顔を見る限りそうではないらしい。 「あれ?学校帰るんじゃねーの?」 「寄り道だ」 「帰るだけなら転移魔法で一斉に帰れるでしょう?でも出来ない。言い変えると出来なかった」 「えっ、もしかしてまだ終わってないとか言うんじゃ」 「私達も終わりだって声を大にして言いたいんだけど、これ片付けないと終われないのが現実」 「…………具体的には?」 「たぶん敵が仕掛けてたジャマー魔法装置が作動したみたいだな。そのジャマーのせいで転移座標の演算が狂って跳ばせないんだと」 「その周辺に敵の残党が集まって国の降伏宣言に逆らってクーデターを企てているとの情報だ」 更に簡単に現代っ子的に分かりやすく言えばメインミッション完全クリアするためにはサブミッションをクリアしないとメインミッションが出てこない感じ。よくイベントである奴やね何気に面倒くさい奴やねせやね。 降伏宣言に逆らってクーデター?あれ、どっかの国がやったって聞いたなーどこやっけねーウチのお国様やね当時の陸軍将校が天皇陛下一時軟禁して降伏宣言させないようにしたって奴ね。でも既に録音してたから放送されてクーデター失敗したって話だったかな。 「この状況で勝てるって盲信する馬鹿はどの世界どの時代にもいるってか………」 合理性の欠片もない。感情や思想のみで動いてもろくなことにならない。まあ、大呀自身も喧嘩売ってきたチャラ男共を邪魔だったからと叩きのめして病院送りにして警察のお世話になっている。1対多の状況だったのでその場は正当防衛で処理されたが、1対1ならば暴行と傷害でえらいこっちゃニュースになってた。 その日から大呀は手加減(笑)を覚えた。一人二人なら投げ飛ばして関節決めての無力化。それ以上なら程度に応じて叩きのめす。 「つまり馬鹿には身をもって馬鹿だと気付いて貰うんわけか」 ふっかふかのお布団ダイブを遠退かせた罪は重い。 「相手は少数だが油断するな。目標が森林の中で見通しが悪い。ゲリラ戦を展開してくると思われる。連携を密にしろ」 『了解』 アルベルト姉の方、エルザが隊長として指揮を取る。 「……ん?あれ?着いたの?」 千咲が周囲の空気の変化に気付いて身を起こした。 「ああ。残念なことに学校じゃなくて戦地だが」 「………終わった終わった詐欺?」 「メインクリアにはサブクリアが必要だと」 「あああ……そういう仕様かチキショー!ガッデム!!」 千咲さんの寝起きテンションがおかしいのも仕様です。
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