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--どこからか、爆発音が聞こえる。
少年は窓もなく、固くて眠ると背中が痛くなるベッドや、便器と洗面台という最低限の物だけを揃えた独房を彷彿とさせる一室の片隅で、膝を抱きながら嘆息した。
不定期的に鳴り響く爆発音と、それにあわせるように聞こえる怒号から察するに、どうやらこの出来事は彼らにとって不測の事態であるらしい。
しかし、それすらも少年にとってはどうでもいい事であった。
この場所から出たいと、少年が願った事はない。
少年にとっては四辺を白い壁に囲まれたこの部屋と、この部屋を訪れる彼らが自分に行うこと、そして共に運ばれてくる冷たい食事こそが世界の全てであった。
だからか、少年は爆発音が徐々に近付いてくる事にも何の疑問も関心も持たなかった。
これからも、この世界がずっと続くと思っていた。
そんな少年の世界を象徴する白い壁が、唐突に吹き飛ばされた。
響きわたる轟音、吹き荒れる熱風は顔を撫で、少年は腕全体で顔を守るように覆った。
--よう、坊主。
頭上から降ってきた気怠げな声に、少年は顔を上げた。
目の前には、こちらに笑顔を向ける見知らぬ女性。
女性の背後には見る影もなく砕け散った壁の残骸が散乱していた。
--お前はこの世界が好きか?
次に目の前の女性が紡いだのは一つの質問であった。
改めて言うまでもなく、少年にとっての世界とは四辺を白い壁に囲まれたこの部屋の事であり、そしてそれはいま崩れ去った。
目の前のこの人物によって。
--そう睨むなって。部屋を壊したのは謝るからさ。
目の前の女性は苦笑いを浮かべながら、おもむろに少年に向かって手を差し出した。
少年はその意味が理解できず、暫しの硬直の後、首を傾げた。
その様子に女性はおかしそうに鼻を鳴らすと、言葉を紡いだ。
--この手を掴め。お前に新しい世界をくれてやる。
新しい世界。この場所以外に、自分の世界があるというのか。それは少年にとって考えもしなかった事であった。
知りたい。
それは少年がこの世に生を受けてから、初めて感じるものであった。
逆らい難い、衝動とも呼ぶべきものの命ずるままに少年は差し出された手を掴み取った。
--ようこそ、この素晴らしき世界に。
その瞬間、少年の世界は色をもって動き始めた。
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