1章

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関所の列に並ぶこと30分。ようやく摩利の順番が訪れた。 皇都の衛兵だろう、木を編み込んだ鎧に身を包んだ中年の男が気だるげな様相を隠そうともせずに手招きした。 「名前と種族、年齢を教えてくれ」 「神崎摩利。人間族で、17歳」 「・・摩利?女みてぇな名前だなぁ」 「よく言われるけど、れっきとした男だよ」 怪訝そうに言う衛兵に、摩利は苦笑しながら答えた。 摩利が名前で女性に間違われるのはもう慣れた事であった。とはいえ、本人は結構それを気にしていた。 「んで、皇都に来た目的は?見たところ一人みてぇだけど」 「観光だよ。一人旅が好きでさ。色んなところ回ってんだ。ここもそのうちの一つ」 「その年で一人旅たぁ、大したもんだ。うちの倅にも見習ってほしいもんだぜ。でも坊主、気を付けろよ?」 「気を付ける?何に?」 「最近ここらの辺りでペリュトンの目撃情報があってなぁ。近辺の村がいくつか被害にあったって話だ」 「ペリュトンが何でこんな内側に・・?」 「知らねぇよ。"外"で何かあったんじゃねぇかって言うやつもいるが、原因はわからず仕舞いだ」 眉を顰めて尋ねた摩利に、衛兵は肩を竦めて答えた。 --ペリュトン。 鳥の胴体と翼、鹿の頭と脚を持った幻獣だ。その翼を用いて空を駆る彼らだが、問題なのはその性質。 ペリュトンは、人間を殺すのである。 食らう訳でもなく、ただ殺す。 (その性質上から、遥か昔に"外"に追放されたはずなんだが・・) 「それに、最近じゃ近辺の村の奴らも皇都に逃げてきてるくらいだからなぁ」 摩利の後ろに並ぶ列の人々を見ながら物憂げに衛兵は言った。 これでやけに大荷物の人が多かった理由もわかった。いつくるかわからないペリュトンの脅威に怯えるくらいなら、いっそ皇都に移り住んでしまおうという考えも理解できる。 何せ、ここは皇王の"庇護下"。下手な場所よりよっぽど安全だろう。 「そのせいで俺らの仕事も増えきちまってよぉ。全くこの前だって・・・」 「それじゃ、お仕事頑張ってね」 よっぽど鬱憤が溜まっていたのか、愚痴を零し始めた衛兵に長くなりそうな予感を感じた摩利は、早々に話を切って衛兵の脇を通り過ぎた。 「ん、おう。達者でな」 そう言って次の相手の応対を始めた衛兵を背に、摩利は門をくぐった。
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