6.新生活

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六月中旬の大安の日。 私は交通事故からの入院生活を終えて、 晴れて退院の日を迎えていた。 朝から専属の看護師をしてくれていた、 左近さんは花束を抱えて病室を訪ねてくれる。 「百花さん、退院おめでとうございます。  今日からは託実君との生活なのよね」 「まだ実感わかないんだけど、  そうみたいです。  託実が新居の手配と、実家への挨拶をしてくれて」 「あらあらっ。  百花さんだけ、置いてけぼりなのかしら?」 ベッドから出てクローゼットに入ってあった洋服に袖を通した私は 病室から出る準備を整えて、ソファ-へと腰掛ける。 ふいにノック音が聴こえて、お祖父ちゃんの声が聞こえた。 お祖父ちゃんとお父さんにお母さん。 揃って姿を見せた三人は、きっちりと正装してる。 お母さんの手には、着物用の鞄がぶら下げられてる。 「遅くなったわね。    百花退院おめでとう。  託実さんとの新居に引っ越してしまう前に、  少しだけ私たちと付き合って貰えないかしら?」 「付き合うも何も私の予定は白紙だもの。  体力さえ続けば構わないけど」 そのまま左近さんに見送られるように病室を後にして、 入院中に持ち込んだ沢山の私物が詰まった鞄をお父さんが抱えてくれる。 そのまま駐車場に横付けされていた車に乗り込んで、 私が何も知らないまま向かったのは、何度か託実とデートで来たことがある伊舎堂のホテル。 「いらっしゃいませ。喜多川さま、満永さま。  ご案内いたします」 いつも案内してくれる総支配人さんに連れていかれた場所は、 何処かの控室。 その部屋でお母さんは、手に持っていた着物鞄のファスナを開いた。
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