6.新生活

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「これはね、百花の成人式の為にお父さんが用意してくれたものよ。  百花は、お祖父ちゃんの振袖で、成人式に出掛けたわね。  今日くらいは、百花に袖を通してほしくて持って来てしまったの」 そう言ってお母さんが鞄から広げたのは、 青を基調にした、雅やかな振袖。 家族三人が待つ中、私は一人振袖を手にして奥の部屋へと向かった。 少しずつ体力が回復してるとはいえ、 内心は、この後の着物を着て過ごすであろう時間に不安を覚える。 「喜多川さま、総帥より伺っております。  極力、喜多川さまのお体の負担にならないようにっと」 そう言って三人のスタッフは、私の体に気を使いながら ヘアメイク・着付け・メイクを済ませて、家族の元へと案内した。 ウィッグを使って、ヘアメイクの時間を短縮。 振袖の方も、ポイントは抑えながら苦しくないように着付け終わると 最後のメイクで、ややトーンを明るくして華やかに演出。 「似合うかな?」 呟いた言葉に、お父さんとお母さんは嬉しそうに微笑んだ。 「似合っておるぞ。儂が作ったのも良かったが、  百花はこの振袖も似合うんじゃな。  さて、案内して貰おうかの」 お祖父ちゃんの言葉に、スタッフが電話をコールすると すぐに総支配人が姿を見せて、エレベーターで上の階へと誘導していく。 通された部屋には、何度か顔をかわしたことがある顔ぶれが並び、 その中に託実の姿を見つける。
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