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「これはね、百花の成人式の為にお父さんが用意してくれたものよ。
百花は、お祖父ちゃんの振袖で、成人式に出掛けたわね。
今日くらいは、百花に袖を通してほしくて持って来てしまったの」
そう言ってお母さんが鞄から広げたのは、
青を基調にした、雅やかな振袖。
家族三人が待つ中、私は一人振袖を手にして奥の部屋へと向かった。
少しずつ体力が回復してるとはいえ、
内心は、この後の着物を着て過ごすであろう時間に不安を覚える。
「喜多川さま、総帥より伺っております。
極力、喜多川さまのお体の負担にならないようにっと」
そう言って三人のスタッフは、私の体に気を使いながら
ヘアメイク・着付け・メイクを済ませて、家族の元へと案内した。
ウィッグを使って、ヘアメイクの時間を短縮。
振袖の方も、ポイントは抑えながら苦しくないように着付け終わると
最後のメイクで、ややトーンを明るくして華やかに演出。
「似合うかな?」
呟いた言葉に、お父さんとお母さんは嬉しそうに微笑んだ。
「似合っておるぞ。儂が作ったのも良かったが、
百花はこの振袖も似合うんじゃな。
さて、案内して貰おうかの」
お祖父ちゃんの言葉に、スタッフが電話をコールすると
すぐに総支配人が姿を見せて、エレベーターで上の階へと誘導していく。
通された部屋には、何度か顔をかわしたことがある顔ぶれが並び、
その中に託実の姿を見つける。
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