最終話 紅玉姫とインディゴブルー

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 馬車が大聖堂の入り口前へと到着する。  荘厳なゴシック様式の大聖堂。  散りばめられた精巧な彫刻と緻密なレリーフの数々。  正面に構えられた聖母の塑像は慈しみの微笑みを唇に浮かべる。  金装飾が施されたローズウッド製のドアは懺悔室への道。本日は固く閉ざされていた。  金刺繍が施されたレッドカーペットの上に降り立ったティルアは父王に手を取られ、ゆっくりと白亜の大聖堂前の段を上がる。  両開きの扉が視界に見えてきたところでティルアはハッと目を見開く。  数日前の惨劇をまざまざと思い出し、ティルアは目を伏せた。 「そういえば、あのような悲惨な事件が起きて、今回の婚礼はディアーナ教としては延期したかったそうだが、ラサヴェル大司教の強い希望で行われる運びになったそうだね」 「……ラサヴェルの、希望……」    ラサヴェルは最期の最期までティルアを想っていてくれたのだろうか。   目頭がじんわり熱くなる。  ティルアは瞳をきゅっと瞑り、ラサヴェルへと祈りを捧げた。 「さあ、ティルア。  この扉が開いたら、前を向いて進むんだ。  そこにはアスティス君がお前を待っている。  歩き方は覚えているね?」 「…………歩き、方?」  イアン王の言葉にティルアは目を瞬きさせた。  途端、イアンの顔色がざざっと青くなる。  ドアの蝶番が外される音が耳に届く。 「ティ……ティルア、いいかい。 右足から入る。次に左足を先に出した右足の歩幅に重ねる……い、いいね、分かったね」 「えっ、父上、まっ!  待ってください。  右足から出す、それは分かりました。  しかしその後、右足に左足を重ねたらどう考えても――――」 「大丈夫だ。私に歩幅を合わせなさい。  後は歩いて覚えなさい!」  両開きの大扉が蝶番の軋みを上げてティルアとイアンの方へとゆっくり倒されていく。  キャソック服を身にした神の御使いがそれぞれの扉を手にする。  徐々に目に開かれていく光景に、ティルアはごくりと息を飲んだ。  光射し込む吹き抜けのフロア。  天井と壁の上部に描かれる繊細なタッチの壁画が金の額縁に彩られる。  左右に立ち並ぶ長椅子の背凭れ部には金糸に縁取られた白豹のベルベッドカバーがそれぞれの椅子に掛けられる。  詰めかける人の多さと熱気に、ティルアの中で静かに眠っていたはずの緊張が目を覚ました。  
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