最終話 紅玉姫とインディゴブルー

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 アスティスは覚束ない足取りでバルコニーの手摺まで寄る。  城下には祝福に詰めかけた無数の民で溢れていた。  みな口々にアスティスの名を讃え、謳う。 「アスティス様! 新王アスティス様!!」  アスティスの両肩に何かが触れた。 「おい、新王よ、早くしろよ。  時間が押してるんだよ!  とっととあの重そうな冠貰って民に姿を見せてやれよ」 「新王アスティスか、悪くないな。  お前が王になれば、孤児院にたっぷりと恩恵も入ろう」 「ギル……ハム……!」  振り向いたアスティスのインディゴブルーがゆらりと揺れ動く。 「なあ、俺様思ったんだけどよ、  玉座の投げ回しなんてセルエリア史始まって以来の大事件なんじゃないか?」 「全くだな、ハムレット。  紋章院の奴らの慌てふためきよう……あれは傑作だった――さ、行くぞアスティス」  二人に付き添われる形でアスティスが王座へと進み出る。  途中、示し合わせたようにギルバードとハムレットの足が止まる。  アスティスはさらにそのまま奥へと進む。  聖玉座の前に立って待つ王の元へと跪く。  紋章院の士官は聖なる油の浄(きよ)めをアスティスの手へと注ぎ終えた後、台座から聖王エドワード冠を取り上げ、現王の手へと手渡す。  王が手にした金冠に光が降り注ぐ。  生まれる虹のプリズムが後方に立ち止まるギルバードとハムレット二人の眼に映り、二人は揃って目を凝らす。  アスティスの頭上に王冠が載せられた。 「旧き時代は終焉(しゅうえん)を迎えた。新たなる世の幕開けである。  皆の者、新王アスティスを讃えよ!」  紋章院の士官が声高に宣言する。 「アスティス、これを」  王は身にしていた象牙紅色のマントと宝剣をアスティスへと託した。  アスティスは静かにその場を立ち上がった。  獣毛をあしらったロイヤルレッドの生地が翻る。  手にするは、王者の覇剣。    バルコニーへと向かう道に、ギルバードとハムレットを追い抜く。  心よりの祝福である拍手は、兄王への厚い信頼に溢れていた。  アスティスは宝剣を民の前で高々と掲げる。  大喝采が起こる。  降り注ぐ光と雲一つない蒼空。  インディゴブルーは力溢れんばかりの覇気と未来への希望とに満ちていた。
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