最終話 紅玉姫とインディゴブルー

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 戴冠式終了後、大聖堂にて結婚式が執り行われる。  王室の式を取り仕切る司祭はディアーナ教総本山から派遣される大司祭以上の地位を持つ聖職者。  ディアーナ教大司教であるラサヴェルの事件から僅か数日後の本日。  中止にしなかった理由は、準備にかける費用や同盟各国への配慮だろうと言われている。  そもそもが婚約の儀から時を置かずしての式。  ティルアに立った悪評の弊害で被った貿易被害、同盟各国との信頼回復への対応にも追われていたことも背景にある。  大聖堂の礼拝堂には各国の要人やセルエリアに属する王公貴族、同盟各国の代表者らが多数詰めかける。  大聖堂前には神聖なレッドカーペットを護るように騎士団の警らが配備されていた。  赤い馬銜と頭絡が取り付けられた毛艶の良い白馬らが白塗りのランドーを引く。  金の車輪と豪奢な装飾を施された車体は最高級の革張りソファが設えらえる。 色とりどりの生花が飾られた客車に、ティルアは緊張の面持ちで腰を下ろしていた。  向かい合わせの席には、ラズベリア王イアンが穏やかな笑みを浮かべ、愛娘の晴れ姿をじっと見つめている。 「……父上、その、あまりそうジロジロと見られましては……」 「ああ、すまないな、ティルア。  瓜二つだと……思ってな。  お前の母さんに……セリアの若い頃にそっくりだ」 「母様に……?」  ティルア誕生の僅か数日後、第一婦人の嫉妬により城塔から身投げした母セリア。  写真でしか知ることのない母の姿。 「私がただの一度だけ贈ったあの愛らしいシフォンドレスを……宝物だと言い、お前を腹に宿した時は紅色の瞳を慈愛に輝かせていた……」  車輪が回る。  車体が上下にカタカタと揺れながら目的地へと進み行く。 「父上は母上のことを本当に愛しておられたのですね」  緋色の瞳を細め、ティルアが微笑むと、イアンは咳払いをする。 「愛し……う、うむ。  しかし、少し前まであれほど凛々しかったお前が、こうも変わるとは」  イアンの言葉にティルアは首を横に傾げる。 「確かに少ししとやかになった気はしますが」 「アスティス君の影響なのだろうね。  よく……笑うようになった」 「!」  真っ直ぐに向けてくる父の瞳。見透かすように発された言葉に、 「そうかも……しれません」  ティルアは頬を染め、瞳を輝かせた。
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