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なっ、恥ずかしい奴ぅ!?
私は彼に目を向け肩を引き、眉間に深いしわを刻む。
「さ~てとっ、麻弥と遊んだし帰るとするか」
私の睨みを無視して、いや、それどころか満足気な笑みを浮かべて彼は立ち上がる。
「そうそう、とっとと帰りなさい。…お母さんは?待ってるんでしょ?」
「親戚のおっさんがここに入院してるから、ついでに見舞いに行ってる。3時には戻って来いって言われてるからそろそろ戻る。…また、遊びに来るから」
視線を廊下に向けたまま、語尾だけ小声で呟く様に言って、海斗くんはウインドブレーカーのポケットに両手を突っ込んだ。
その横顔が、何だかちょっと大人びて見える。
閉鎖された、このコンクリートの囲いの中から飛び立った鳥の羽ばたきを見た気がして、自然と笑みが零れた。
本当は『うん、また会いに来てね』と、言いたいけれど…
「病院は遊びに来るところじゃないのよ。こんな所に遊びに来る暇があったら、勉強を頑張りなさいっ」
また反撃が来ることを分かっていながらも、敢えて意地悪気に言ってやった。
「うっせーなー!麻弥なんかに言われなくても、分かってるよ!」
…ほらね。
「また麻弥のしけたツラ見に来るからな~」
最後まで憎まれ口を叩いた海斗くんは、両手をポケットに突っ込んだまま体を揺らして病棟を去って行く。
しけた面って…ったく、生意気な言葉ばっかり。どこで覚えて来るんだか。
「もう、戻って来ちゃ駄目よ。病院なんかに遊びに来る暇があったら、いっぱい友達を作って、思いっきり遊ばなきゃ」
小さな背中が消えて行くのを見届けて、私は穏やかな気持ちでそう呟いた。
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