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栗色の綺麗な髪を耳の上辺りで二つに縛り、くせっ毛のクルクル巻き毛を強調させてお人形のように可愛らしく仕上げる。
「麻弥、後の支度は俺がやるから。急がないと電車に乗り遅れるぞ」
「うん、お願いっ」
着替えを終え洗面室を覗き込む先生に咲菜ちゃんを託し、私はバッグを取りに自室に戻る。
エプロンを外してベッドに放り投げ、バッグを掴み上げて再び廊下に駆け出る。
「まーや、いってやっしゃーい!」
きっと、呼びやすいのであろう。いつの間にか私を「まーや」と呼ぶようになってしまった咲菜ちゃんが、両手をブンブンと振って見送ってくれる。
「咲菜ちゃん、『いってらっしゃい』だよ。はい、行ってきます!」
舌を巻く発音が苦手な彼女に正しい口の動きを見せた後、柔らかな笑みを少女に向けた。
「いってらっしゃい。後で、病棟でな」
先生は咲菜ちゃんの後ろに立ち、小さな肩に手を乗せ、靴を履く私を見て静かな笑みを浮かべている。
ついさっきまで腹を立ててたあの感情の高ぶりが…
恥ずかしいと言いますか…なんか、調子狂うじゃないの。
「…はい、行ってきます」
彼に向かって気まずそうに笑みを返し、私は二人より一足先に高瀬家の玄関を出た。
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