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午後2時――。
午前中の診療受付けを終了した外来棟は、フロアの椅子に座る患者の数も疎らとなり、慌ただしさの名残を留める椅子の上には、幾つかの週刊誌が置き去りにされている。
その放置された雑誌を回収し、消毒薬を滲みこませた雑巾で空いた椅子を拭く、清掃業者のおばちゃんに労いの言葉を掛けながら私は病棟に向かって歩いていた。
他部署に行く一通りの用事を済ませ、戻った私の顔を見るや否や。
「あっ、安藤さん来た来たっ!」
七瀬さんが甲高い声を発した。
「探しましたよ~どこに行ってたんですか?」
私の足先がステーションに踏み入れる前に、七瀬さんは問いを投げながら廊下に走り出て来た。
「どこって、循環器外来と医事課だけど?」
私はA4サイズの茶封筒を手にして眉を引き上げる。
「そうだったんですか。知らなかったから探しましたよ~」
「探したって…医事課に下りる前に七瀬さんに伝えてって、一応頼んだけど…」…そこいらで記録書いてた看護師さんに。
「私は聞いてないです。…あっ、そんな事より、安藤さんにお客さんが来てますよ。すっごく若くて、なかなかのイケメン君が」
七瀬さんはそう言って、ステーションの斜め前にある面会フロアを指さしてニヤリと笑う。
はぁ?すっごく若くて、なかなかのイケメン君って―――誰?
勿体つける七瀬さんを追い抜いて、眉間にしわを寄せながら面会フロアの様子を窺う。
「あっ。何だ~、海斗くんか。イケメン君なんて言うから期待しちゃったじゃんか~」
「何だとは何だよ。おまえ友達が居なくて淋しい女だから、可哀想だと思ってせっかく受診のついでに会いに来てやったのに」
ジーンズに黒のadidasのウインドブレーカーをはおって、入院中のパジャマ姿よりもちょっぴり大人に見える海斗くんが、ふて腐れて口を尖らせた。
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