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「誰が淋しくて可哀想な女だっ!大きなお世話!それより、今日が定期受診日だったんだ。退院してから調子は良いの?」
私は鼻をフンと鳴らした後、海斗くんが座る長椅子に向かって歩いていく。
案内人の七瀬さんは「じゃ、私は仕事に戻りますね」と、その場に明るい笑顔を置いてステーションへ戻って行った。
面会フロアには海斗くんの他に、家族の面会に来たと思われる中年女性が一人、大きなバッグを隣に置いてテレビの前に座っている。
一瞬目が合ったその女性に軽く会釈をして、私は海斗くんが座る壁側の長椅子に腰掛けた。
「うん、調子いいよ。あれから発作も無いし。薬で発作が抑えられてるなら、直ぐに手術はしなくて良いんだってさ」
隣に座った私を見て、海斗くんは声を弾ませピースサインでニカッと笑う。
「そうなんだ。手術なんて怖いもんね。毎日薬を飲むのは大変だけど、手術より良いよね」
「手術なんて別に怖くないけど~長く入院しなきゃいけなくなるのが退屈なだけ。薬を毎日飲むのはもう慣れたし~」
海斗くんは澄ました顔で生意気に言って、お尻が滑り落ちそうなくらいに偉そうに椅子にもたれ掛る。
―――詳しくは知らないが、彼の病気は心筋症だと聞いたことがある。
その中でも、不整脈を予防する薬の効果が得られていれば、運動制限は必要だが比較的元気に日常生活を送ることができる心筋症であると。
不整脈発作を避けるために毎日薬を飲み、周囲の子供たちと同じように元気いっぱいに走り回りたくても、それが許されない…
生意気な言葉も、大人びた仕草も…強がりは、子供ながらに自分を守る術?
妙に病院と大人慣れをしてしまっている彼を見ていると、時々、胸が痛む――。
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