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…あれ?
「あっ、可愛いボールペン。クリスマスっぽいじゃないですか~」
先手を取って、私の手もとを窺う七瀬さんが言った。
手のひらに滑り込んで来たのは、サンタクロースとトナカイの絵柄が描かれたボールペン。
「…うん。いかにもクリスマスっぽいね」
想定外のサプライズ。拍子抜けして、その可愛らしいお髭のサンタさんの顔を見つめたまま声を漏らした。
そして、ボールペンと一緒に落ちて来た一枚の便箋。包装紙の大きさに合わせて、窮屈そうに長細い形に折られている。
それを広げてみると、【カレシがいなくてかわいそうな女だから、オレさまがクリスマスプレゼントをやる】の、丁寧とは言い難い、小学4年生の男の子らしい鉛筆文字。
…だから、別に可哀想な女じゃないから。
「クリスマスプレゼントですね。自分で渡すのが恥ずかしかったのかな~。シャイな子ですね」
苦笑いを浮かべる私の横で、ボールペンを見つめる七瀬さんがにやけ顔で言う。
「そうかもね。手に負えないくらいのマセガキだから」
「もしかして、あの子にとって安藤さんが初恋の相手とか!ほら、男の子って年上の女性に恋をする時期が必ずあるって言うじゃないですか!」
「何それ。ますます、マセガキ。…そんなんじゃないよ。私とあの子は屋上友達…」
自分の人生を悲観した私がこの名古屋に越して来て、知らない土地で、知らない職場で、初めてできた友達が海斗くんだった。
生まれながらに与えられた病気と闘う、小さな戦士。…彼の前では、私の不運などちっぽけなものだと、そう思えた。
「屋上友達?何ですか?それ」
「ん?…内緒。そう言えば、衛生材料の在庫確認は終わった?年末年始に入るから、前年度不足して追加した分も合わせて発注かけておいてね」
私を見つめる彼女の視線を遮断して、先ほどまで彼女がペン先を走らせていた書類に目を向けた。
「はい、分かりました。…あ、精密機器の消耗品ってどうなってたかな…。人工呼吸器の人工鼻って…。私、機材庫に行って来ます。この電カル使ってください」
そう言って、七瀬さんはチェックしていた伝票を持ち席を立った。
私は彼女が体温を残した椅子に座り、海斗くんがくれたボールペンを手もとでクルクルと回して眺める。
「愛いヤツめ」
小さな声で呟いて「ふふっ」と胸の内で微笑んだ。
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