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「あと、斉藤美紀ちゃん…覚えてるか?」
「美紀ちゃん…小児科に入院中の6歳の女の子ね。屋上で折り紙教えてあげた」
「あの子の手術も無事終わった。来週には退院できる」
「えっ!?あの子、手術が必要な病状だったの!?」
思わずカルテから視線を外し、先生の顔を見上げて声を走らせた。
「手術って言っても、カテーテル手術だ。心房中隔欠損症といって、簡単に言うと出生後に閉じるはずの心臓の壁の穴が空いたままになってて、血液が正常に回らない先天性の心疾患。カテーテルでその穴を塞いだからもう大丈夫だ。って、おまえ、声大きいから」
先生は表情一つ変えずに淡々と言いきって、最後にククッと微かに喉を鳴らした。
「ごめんなさい…つい」
私は肩を縮め、空気に溶けて消えてしまいそうな声を落とす。
「でも、無事に済んで退院できるなら良かった。…あっ、カテーテルって事は、外科じゃなくて内科だよね?先生がオペレーターしたの?」
「まさか。俺は小児はやらない」
「…だよね。なら、どうして先生が美紀ちゃんの情報を?」
「一度でも自分が関わった患者の経過は、小児だろうと知っておきたい質だから」
一度でも関わった?…ああ、そうか。
救急外来に運ばれた時、最初に美紀ちゃんを診たのが高瀬先生だって言ってたな。
一度でも関わった患者の経過を知りたいって、一体どれだけの人数の情報を把握してるの!?
500人?1000人?
私なんて、今流行りの芸能人の名前すら右から左なのに。
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