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12月20日。
一週間のお試し家政婦として高瀬家に入り、三日目の朝―――
ダイニングキッチンに取り付けられた大きな開閉窓からは、冷たい空気を包み込む眩い光が射し込んでくる。
食卓に漂う珈琲の香りと、ソーセージと卵焼きの美味しそうな匂いは鼻腔を擽り、身体の活動開始の号令となって食欲を誘う。
メイクを終え髪を一つに束ね、出勤の身支度を先に済ませた私は、水色のエプロン姿でテーブルの上に三人分の朝食を並べる。
「先生、咲菜ちゃんを起こして来て下さい。何回起こしても起きてくれなくて」
正面に座る先生の前にモーニングプレートを置きながら、珈琲を片手に手もとに視線を落とす彼に声を掛けた。
「咲菜を起こすにはコツがいる。麻弥の起こし方が優しすぎるんだ」
新聞から目を外した彼はそう言って、眼鏡の奥から私に笑みを向けた。
「コツって…どうやって?」
「布団をひっぺがえして、ガバッと抱きしめて目覚めのキッス」
「ええーっ!?目覚めのキッスって、毎朝そんな起こし方してるの!?」
異国の血が混ざっているとは言えなんて情熱的なっ!…って、親子で変!絶対それ変だってっ!
「あ、それは麻弥を起こす時だったな。咲菜は布団から引っ張り上げて朝食を見せたら直ぐに目覚める」
悪びれ無くさらりと言って、椅子から立ち上がった彼は廊下に続く扉に手を掛ける。
「……」
私は眉間にしわを寄せ、未だ寝衣姿のその広い背中を見つめ、
「麻弥を起こす時って…そんな刺激的な起こし方、して頂いた記憶ないんですけど?」。そう心の内でぼやいて、人知れずプクッと頬を膨らませた。
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