第11話 【新しい生活】

8/30
前へ
/30ページ
次へ
「…ん?」 「いえっ、何でも無いです。えっとですね、ずっと欲しかったものはお金だったので、『物は?』と具体的に聞かれると全然浮かんでこなくて…」 「お金って…そう言えばそうだったな。それもまたストレートで気持ちいいが、クリスマスプレゼントとしては色気ゼロだな」 戸惑う私を見て、先生が目を細めてククッと笑う。 色気ゼロって……はい、おっしゃる通りで。 自分でも分かってはいるものの――― 「…色気が無いって、最近言われっぱなしです。勿論、今はお金にそこまでの執着心はありませんが…」 肉体においてもこんな乏しい私だけれど、ほんの少しでもセックスアピールを感じ取って頂きたい相手に言われてしまうと...流石に凹むんです。 心の内に深いため息をついて、肩を落とし苦笑いを浮かべた。 「最近言われっぱなし?色気が無いなんて、他に誰に言われたんだ?」 えっ?… 「…っと、いつも一緒にバイトしてる人です。深津さんって言うんですけど。あっ、この前先生がビールくれた日にもレジに居た人です」 「…ああ、あのデカくてごつい感じの男か」 デカくてごついってあなた…まあ、確かにそうだけど。 「深津さんは学生時代にラグビーをしていたので、筋肉質で体格がイイんです。コンビニは夜間女性だけで働いてはいけないので、彼は私のバイト仲間兼ボディーガードみたいなものです」 私はさらりと笑顔で言って、それぞれが食べ終わった食器を集め始める。 「ふ~ん…、麻弥のボディーガードねぇ…。で?いつ辞めるんだ?バイト」 先生は椅子にもたれ掛り、咲菜ちゃんが口の周りに付いたヨーグルトを、自分で一生懸命に拭き取ろうとする仕草を見守りながら言った。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1754人が本棚に入れています
本棚に追加