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そうだ。何故、何故、何故、ぼくが、何も悪い事なんかしていないのに死んでいかなければいけないんだ。ぼくが何か、悪い事をしたと言うなら認める。人を傷付けたとか、盗みを働いたとか、人を殺したとか、それなら分かる。その報いと言うなら諦められる。ぼくが心からの悪人だったなら、ぼくが誰かを傷付けたとでも言うのなら、ぼくがこんな目に遭っているのはぼくの『業』だと言うのなら、ぼくは今すぐ、誰かに後ろから刺されて殺されたって構わない。
けれど、ぼくには受けるべき『報い』など何もないのに、『業』があると言うならば、それはぼくをいじめたあいつらの方であるはずなのに、あいつらには何の『報い』もなく、ぼく一人が死んでいく、そんな馬鹿げた話を、理不尽を、何故、何故、ぼく一人が飲み込んで、死んでいかなければいけないんだ。
「どうせ、まともな仕事じゃないんですよね。まともな仕事じゃないから、奮発するなんて言ってるんですよね。なんでもしますよ。呼び込みでも、高飛びでも、詐欺でも、盗みでも、人殺しでも」
ぼくはそう言うと、少し泣きそうになりながら、男に向かってにこっと笑みを作ってみせた。笑顔なんて、浮かべるのはすごく久しぶりなような気がした。何も嬉しくなんてない。むしろ、悲しい。悲しいのに、何故だか今は、にっこり笑うのが相応しいような気がしていた。
男は、しばし呆然とぼくを見つめると、「おもしろいなお前」と、ぼくの肩をバンバン叩いた。人殺し。そうだ。ぼくは人殺しになろう。犯罪者になろう。ぼくが納得して死んでいくために、ぼくはぼく自身の手をこれ以上ない程汚すのだ。ぼく一人が理不尽を飲み込まなくて済むように、何故ぼくがこんな目に遭ったかを、納得してから死ねるように、そのために、ぼくは、ぼくは、ぼくは今日からなんにだってなろう。人殺しにもなろう。それがぼくに、ぼくが納得して死んでいくのに必要だと言うのなら。
ひどく悲しくてたまらなかった。
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