第一部

2/5
前へ
/5ページ
次へ
男の一言に、頭の上から氷水を一気に浴びせられたような気がした。指先が、壊れた機械か何かのようにガクガクする。男はベンチの上の花束と、開けられていない綺麗なコンビニ弁当に視線を落としながら、ここであった出来事を簡単に説明してくれた。 「コンビニ弁当の飯を喉に詰まらせたんだとさ。歯がないってのに、完全に固まった冷たい飯を慌てて食おうとしたんだろうなあ。二口三口食った所でぽっくり逝っちまったらしい。何処から来たのかも、どう生きてたのかも分からないような婆さんだったらしいが、まあ、ろくな人生じゃなかったろうな。そんな人生、生きてるだけ辛いだけだろうし、案外あっさり死ねて幸せだったんじゃねえのかな」 そう締め括った男の言葉を、しかしぼくは、最後まで聞いてはいられなかった。ぼくは目の前が真っ暗になるような気分でふらつきながら、何かから逃れるかのように公園から出ていった。 なんなんだ。いったいこれはなんなんだ。あっさり死ねて幸せだった?ろくな人生じゃなくて、他人の捨てた弁当を食べなきゃいけないような所まで来て、それでも、なんとか生きようとして、足掻いて足掻いて、あがいて、そして最期には、あっけなく死ねて幸せだった?だったら、幸せってなんだ。生きるってなんだ。いったい何のために生きてるって言えるんだ。なんのために、人間っていうのは生きているんだ。弁当を喉に詰まらせて、あっさり死ぬために生きていたのか。そういう所まで落ちてしまうような人間は・・・そういう最期を遂げるために、ここまで生きていたと言われるのか。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加