第一部

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ぼくは誰もいない路地裏に腰を下ろすと、そのままそこにうずくまり、人が増え、人ごみが出来、太陽が動き、暮れてしまっても、ずっとそこに座り続けていた。 人が生きるっていったいなんなんだろう。道を歩いている人達は分かる。あれは分かる。ここまで落ちてこなくても、『きちんと生きていける所』で「生きていける」人達は。 けれど、あの場所で、『普通にきちんと生きていける』所で生きられなくなった人達は、ぼくや、あのおばあさんみたいにそこから外れてしまった人間は、いったい何のために、何のために、何のために生きているって言うんだろう。あのおばあさんは何か目的があったのかもしれない。でも・・・ぼくにはない。少なくともぼくにはない。ぼくには帰る家もないし、親も無い。生きていく術も持ってはいない。金もないし、生きる当てもないし、なんで生きているんだろうってずっとずっと思っていた。 でも、なんで生きてるんだろうってずっとずっと思いながら、それでもぼくはここまで生き続けてしまっていたのだろう。なんで自殺しなかったのだろう。なんで消えてしまわなかったのだろう。なんであの家で数年間も引き籠り続けていたのだろう。なんで通帳を持って飛び出したりなんかしたのだろう。なんでアパートに転がり込んでしまったのだろう。なんでバイトを探したのだろう。なんでゴミ箱の弁当を食べてまで生き延びようとしていたのだろう。なんで、ぼくは今、ここに座っているのだろう。なんで死にに行かないのだろう。なんで、ぼくが死ななくちゃいけないんだろう。 ぼくは何も悪い事なんてしていないのに。
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