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当たり前のことが当たり前に行われていると人はその有り難さに気づきにくい。
例えば運動会。
お母さんが朝早くからお弁当を作ってくれて、張り切ったお父さんがカメラを持って場所取り参戦、孫の晴れ舞台を楽しみに来る祖父母に、兄の応援をしてくれる妹や弟、弟の応援をしてくれる姉や兄。
お昼休憩になると音楽と共に一斉に自分の両親を捜しに走り出す生徒達。
一方その頃、俺という存在は一人で教室に向かい外を眺めながら朝早くに買ってきた弁当屋の弁当を食べるのだった。
ええ、もちろんお一人様で。
「はあ? 誰が中学生にもなって親なんかと食えるかよ。マジうぜー」なんて言ってみたい台詞ベスト3に入る。
「バ、バカじゃねーの! なんでくんだよ、おまえ!」なんて歳の離れた妹や姉に言ってみたい……。
普段からそういう生活を送っているから奴らはその有り難さがわからんのだ。
両親も、姉も妹も兄も弟も、家族という家族がいない俺にとってはそんな一般的な幸せは憧れでしかなかった。
率直に言って、家族が欲しかった。
家に帰ったら電気がついていて、温かいご飯が待っていて、ただ「おかえり」と言ってもらえるような、普通すぎる家でよかったんだ。
ないものをねだるのは人の性なのかもしれない。俺はいくつになってもその憧れを子供のように抱いて、そのまま大きくなっていった。
……そんな俺の夢が叶う日がくるなんて誰が想像出来るだろうか。
そうだ、今日付で俺には家族が出来るめでたい日なのだ。
あわよくば可愛い妹か美人な姉であることを祈ろう。そして俺がイケメンという外敵から守るカッコイイ兄や弟になるのだ。
そんなことを妄想しながら、俺は今日から茶の間学園に通うことになる。
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