(1)家族のような友達のようなただのクラスメイト

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 そんな浮かれポンチだったからこそ、起田麻妃ははりきりすぎて間違ってしまったのだ。  大事な大事な、今日という日を。  核家族が増え、親の都合による片親が増え、あらゆる事情から一人っ子が増え……他人同士どころか家族関係自体も希薄になってきたのは、なにも最近のことではない。  ニュースで嫌でも耳にしてしまう子が親を危めてしまう事件、またその逆の事件、どうしてこのような悲劇が繰り返されてしまうのか。  団欒地区――それがそんなあらゆる問題を抱えた世の中を改善する為に立ち上げられた試験区域だった。  一つの街そのものが団欒地区とされ、茶の間学園と呼ばれる高校を中心部におき、都心部からやや離れた埋め立て地に設立されている。  麻妃の住んでいる自宅マンションから電車で乗り継いで40分ほど。団欒地区エリア入口には認証システムがあり、必ずそこを通過しなければならないので誰でも気軽に入れる区域ではないのだ。  主に学生区域なので学生は学生証による本人認証を終え、晴れて団欒地区へと足を踏み入れることが許される。  が、そんな喜びにふける余裕もなく、 「嘘だろ、マジで! 嘘だと言ってくれええええええええええ!」  慌てた様子で本人認証を終えた麻妃は走ってゲートを越えて、道行く同じ制服の生徒達を掻き分けて団欒地区中心部にそびえたつ茶の間学園へと突っ走る。  何故こんなにも麻妃が慌てているかというと決して寝坊して遅刻しそうだから、ではない。  入学式の日を間違えたから、である。 「俺としたことが……なんという失態……」  麻妃は肩で息をしながら茶の間学園の門前で嘆く。  おかしい。こんなはずじゃなかった。この学園にある特殊な制度が楽しみすぎて眠れない日々を過ごしていたことは認めよう。しかしだからといって事も有ろうに入学式の日を間違えるなんて……なんてこったい!
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