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「今回の分だ、数えてくれ」
ぼくはそう言うとタバコの焦げ痕が点在しているデスクの上に札の束を放り投げた。肘をついていた男が金を手に取り、機械に入れて枚数を数える。ぼくが抜き取っていないかを調べるためだ。以前、枚数を誤魔化そうとした「アルバイト」がいたとシンに教えてもらったのだが、馬鹿なヤツだなと思いながら黙って話を聞いていた。もちろん、元々枚数が足りないという可能性も、もしかしたらゼロではないかもしれないが、だが、多分ほぼゼロに等しいレベルであり得ない事に違いない。何故なら「身内の危機に、金額を誤魔化して渡す馬鹿などいない」からだ。詐欺だと疑っているなら枚数を誤魔化しなどはせず警察に連絡する事だろう。詐欺だと疑うにしろ信じるにしろ、枚数を誤魔化して渡すようなヤツはいない。少し考えれば分かりそうなものなのになんて浅はかなヤツなんだろう、名前も知らない、顔も見た事がない、今後会う可能性もまるでない「アルバイト」にぼくはそんな感情を抱きながら、「でもこいつらも底が浅い」と、そんな風に思っていた。詐欺に限らず犯罪など、この世で最も用意周到にやらねばならない事だろうに、そんな馬鹿を雇うようではここも底が知れている。
「シンさん、すいません、今日でこの仕事を辞めさせて頂きたいんですが」
今回の「報酬」を貰った後、ぼくはシンにすまなそうにそう切り出した。シンは手に入った金にヤニ下がっていた表情を騙し絵のように変化させると、二ヶ月前ぼくを脅した時と全く同じような低い声で、ドスを効かせてぼくの方へと詰め寄った。
「なんだ突然。今更怖じ気づいたのかよ。アアん?」
「シンさんにはすごくお世話になりました。服を買えたのも、飯が食えたのも、風呂に入れたのも、寝る所があったのも、全部シンさんのおかげです。本当に感謝しています。本当なら、このまま、ずっとシンさんと『仕事』をしていたいくらいです」
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