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開けた社内はがらんとしていた。
取材にでも出掛けたのかなと考え、
真弓は、隅に留守番で残る人の処へと歩み寄った。
「渡辺さん、おはようございます。
絵一に頼まれて作品をば持参しましたがね」
真弓は、幾度かこの出版社には訪れている。
「おっ、これは絵一夫人じゃないですか。
はい、絵一さんのイラスト確かに。
いや~~お寒い中ご苦労様なことですなぁ」
「夫人だなんて。
えへへへ、まだ早いがね渡辺さん」
「式にはぜひ呼んで下さいよ、絵一夫人」
「はぃはぃ……。
ところで渡辺さん、今日はこの絵を」
と言って、カバンのなかから取り出して観せた。
「おーーっ、これは凄い!」
「でしょう。ねっねぇっ」
「いやいや、
私は、会計が主な仕事ですので、絵の善し悪しはさっぱりでして……はい」
「あらら、そぉうでしたね。
でも……さっぱりでも聞いて下さいなぁ。
あのね渡辺さん、
この絵はね、最低でも三十万は下らんのですよ、この絵は」
「そぉうなんですかぁ?
じゃぁこの絵は私が預かっときますよ。
後日、偉い絵描きの先生が参られますので、
その時に改めて拝見させて貰いましょうかねぇ」
「えっ、偉い先生ちぃ!?
分かりました。
じゃ、渡辺さんよろしくお願い致しますがね。
では、あたしはこれで」
「はい、お疲れ様でした、絵一夫人」
真弓は絵一夫人と呼ばれて、もぅ最高な気分で、
そのあとの銀ブラする足取りも軽かった。
そうして銀座を歩く最中に、ふと真弓は足を止めた。
なぁんねあれぇ?
ん、ライトバンで玉葱を売っちょるがね。
銀座で玉葱ねぇ……面白いっ!
よしっ、今夜はカレーに決まりぃっと!
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