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四純は、妻の裕神から呼び出しを受けて、
指定の喫茶店へと赴いた。
自動ドアが開くと、
大きく手を振る裕神の姿が、眼に飛び込んできた。
四純は裕神の下へと急いだ。
「しばらくね、四純。
あら、顔色良さそうじゃない」
四純は、裕神と別居してからもぅ三月(みつき)にもなる。
「ぁあ……顔色はいいんだけど……。
裕神……
僕たちはほんとうにもぅ駄目なのかぃ……?」
二人がこの喫茶店で待ち合わせた理由は、
「四純、判子は持って来たわよね」
離婚の書類に、四純の判を押すためだった。
「ぁあ、持ってきたょ……裕神。
……でも
僕には押せないょ……」
裕神は黙って腕を伸ばすと、判子の催促をした。
「……どうしてもなのかぃ……裕神」
裕神はただ黙って頷いた。
「裕神……
僕には分からないょ。
……半年前にはあんなに愛し合っていたのに……」
裕神は、そんな感傷的な話しには乗りませんよ、とばかりに、
バシッバシッ!
と、力強く判を押していくのだった。
バシッバシッ!
「ぁぁ、裕神……
考え直さないかぃ……」
バシッバシッ!
裕神はちょっと顔をあげて、
「離婚届けの他に、
押すとこいっぱいあるわ」
と言いながら、イヤイヤと首を振るのだった。
「はい、四純出来たわょ。
この書類は、私が責任を持って、お届け致しますからね、四純」
四純は、あぁと嘆いてから、
両手で頭を抱えながらテーブルに肘をついた。
「四純……
ねぇ四純、そんなに嘆かないで。
私に彼氏ができて、あなたとお別れする訳ではないのょ」
と、只今誕生しつつある元妻の裕神は言うのだった。
「ぁあ……そうだったね。
……僕たちはいつも心がすれ違ってばっかりで……。
だから僕は、君を見失って……。
ぁあ……全て僕が悪かったんだよね……裕神」
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