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1.旅立ちの朝
その日も少女は、鳴り響く機械音で目覚めた。二階の一番奥、一際小さな部屋の二段ベッドの下の段が少女、結坂咲希の寝場所だ。
だが、上の段に人気はない。随分前からこの二段ベッドと小さな部屋は、咲希一人のものになった。
ゆっくりと起き上った咲希は、枕元に置いてあったペンダントを首にかけた。《学園》に行ってしまった、優しい兄からの贈り物。大きめの鳥籠のデザインで、咲希が持つ唯一のアクセサリー。
何度握りしめて眠っただろう、これが、兄姉がいなくなってからの心の支えだった。
「今日、卒業式だよ。もうすぐ会えるね……」
それも、今日で終わりだ。
《これにて第四十回水崎市立たながわ小学校卒業式を終わります。卒業生退場》
式は滞りなく終わった。教室に戻った卒業生はいつもの仲良しグループに分かれ、教室との最後の別れを惜しむ。その中で、咲希は当然の如く一人だった。
みんな知っているのだ。結坂家は七人兄弟でお金がないことも、咲希は双子の弟と比べてあまり可愛がられていないことも、そして、中学からはどうせ《学園》に行ってしまうことも。
「結坂さん、あのさ……」
「何?」
「結坂さんもネデナ学園に行くの?」
「……まあ。上の兄弟全員そうだから」
咲希が投げやりに答えると、ほとんど話したこともない女の子は、あからさまに溜息をついた。
「そっか、尚人くんも行っちゃうんだ」
話しかけてくるのは大抵尚人目当てか頼みごとがある時、それか嫌みを言いにくる時くらいだ。
その問に咲希は笑って応えた。
「うん、だからさよならだね」
卒業の悲しみや辛みはない。あるのは兄姉に会える喜びと、久しぶりの再会への僅かな緊張だけだ。
この日の夜、咲希は僅かな荷物を小さなボストンバッグに詰め込んだ。
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