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だが、次の言葉で尚人は悲鳴に近い声をあげ、咲希も呆気にとられた。
「そうだ。学園内への私物の持ち込みは許可されてないから、悪いけど二人の荷物は預かるね。大切なものは卒業時や学園の認可が下りた時に返却するけど、基本的には処分っていう形になる」
「ええっ!?」
「荷物持っていけないって……着替えは? お財布とか本だって!」
「うん、着替えは向こうで用意されてるし、大半は制服。お金も学園内は特別な通貨しか使えないんだよ。お小遣いとして支給されるからね。本は大きな図書館で借りることもできるし、本屋もあるから」
「それでも……せっかく買ってきた服とかボールとか漫画とか……」
「うん、服もボールも漫画も遊び道具も学園内で売ってるから。本当に悪いけど諦めて」
工藤は穏やかな口調で、だが、押し切るように言い切った。ここまではっきり言われてしまうと、もう反論の余地がない。二人して押し黙り、視線だけを工藤にやった。
「まあ心配しないで、優しい先輩達もたくさんいるから。まだかかるから、二人とも少し寝てるといいよ」
工藤は運転手の方に行ってしまい、奥に残るのは咲希と尚人の二人だけ。二人は少しの間顔を見合わせたが、どっと押し寄せる眠気に身を任せることにした。
「二人とも、起きて!」
揺らされる感覚で重い瞼を開けると、バスは既に停まっていて、窓からは夕日が差し込んでいた。彼方の腕時計の短針はピッタリ5を指しているから、二人して三時間爆睡していたらしい。
「おはようございます……」
「うん、よく寝てたね。ほら、尚人くんもしゃきっとして」
バスを降りるとそこは別世界。
「すごい……」
森に囲まれた広大な土地の奥に、西洋風の古城がそびえたっていた。
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