第四部

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2. 「店内でお召し上がりですか」 ぼくの方を真っ直ぐに見てくる女性店員の視線から逃れるように、ぼくはカウンターに貼り付いているメニュー票に視線を落とすと、「はい、えっと・・・エッグマフィンと、あとミルクを一つ」、と大きくはない、かつ聞こえない程小さくもならないように気をつけながら口を開いた。しかし店員は「すいません、エッグマフィンは朝のみで・・・」と申し訳なさそうに口を開き、結局、卵のタルトと、サラダと、ミネストローネと、シロップを掛けて食べるパイと、ミルクという、サイドメニューばかりを注文した。「なんでバーガーのチェーン店でバーガーを頼まないんだ」と思われてるんだろうなと思いながらも、「でも、ぼくはエッグマフィンが食べたかっただけだから・・・」と心の中だけで言い訳した。それ以外の肉や魚やフライのバーガーは食べられないし、目当てのものが食べられないからって回れ右するのも気が引けた。サイドメニューばかりでも、ダイエット中の女子かと言いたくなるような注文でも、頼まないよりマシだろうと、ぼくは内心、一人で口を尖らせていた。 ろくにものが食べられなくなっている事に気が付いたのは、恭也に会うまでは生きていようと思って残飯を漁っていた時の事だった。ゴミ箱の中からハンバーガーの包みを発見したぼくは、包みの上についていた埃や汚れを払い、それにかぶりついた。そしてあまりの不味さに口に入れたそれを吐いてしまった。別に腐っていたというわけではない。しょっぱくて、脂っこくて、粉っぽくて辛くて不味かったのだ。ぼくはバーガーの中心ではなく、バンズの方だけをちょこちょこと食べ、肉やソースがついている部分は食べなかった。あまりにも味が強過ぎて食べる事が出来なかった。 その後色々歩いて回り、少なくとも米と、何も味付けされていないパン生地と、水程度は口に出来る事が分かったが、他は全然だった。それでもシンの元で、詐欺で金を得るようになり、少しずつ舌と胃袋を正常に戻そうとしたのだが、今でも米と、パンと、お菓子と、卵と、野菜と、飲み物ぐらいしか口に出来ない。肉や魚や揚げ物などは重過ぎて口に出来ないのだ。そんな状態だったから、レトルトの卵雑炊をコンビニで発見した時はひどく感動したものだ。世の中にはすごい人がいるものだと、レトルトのパックを手にしながら心の底から思っていた。
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