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私はハッと飛び起きた。
足元には、さっきまで読んでいた本が開いたまま落ちていた。
本を読んでいるうちに、いつの間にか寝てしまったらしい。
私はさっき見た夢について、思い出そうとした。
昨夜の女性をママと、さっき新しく出てきた男性をパパと、呼んでいた。
そして、見覚えがないが懐かしいと感じたあのリビングは、きっと私が住んでいた家なのだろう。
夢の中で食べていたケーキも、どこかで食べたような味だった。
私がこの家に来てから食べたケーキは、全て生クリームののった白いケーキだった。
あんなケーキは見たことも食べたこともない。
でも、夢にしては食べた時の味も、舌触りも、鮮明に覚えていて、逆に気味が悪い。
(私、変だ。今までこんなことなかったのに。一体、何が起きているの……?)
考えているとだんだん寒気がしてきた。私は両腕で肩を抱くと、本を置いたまま、自分の部屋に駆け込んだ。
布団に入ると、頭まで毛布をかぶった。
(このまま全ての記憶を取り戻したら、私はどうなるの……? 私は、わたしは、ワタシハ……)
やがて日が暮れて、父が帰ってきた。
私は具合が悪いと言って、布団から出なかった。
何度か父が様子を見に来たようだけど、私は布団から顔も出さずに寝たふりをしていた。
(記憶を全て取り戻したら、私は父さんと別れて本当の両親のもとに帰らなくてはならない。本当に、このまま父さんと別れていいの……?
父さんは私の本当の両親が見つかることを望んでいる。私は父さんに何も恩返しをしていない。
このまま出て行くのは嫌だ。
父さんのために何かやってあげたい。
でも、本当の両親が見つかったら、もう、父さんはここには置いてくれない。
私をここに置く理由はないから……)
私はいつの間にか濡れていた目元を拭うと、机の上から、名札を手に取った。
名札を持ったまま、私は一晩中、布団の中で考えていたのだった。
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