第1章

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私はハッと飛び起きた。 足元には、さっきまで読んでいた本が開いたまま落ちていた。 本を読んでいるうちに、いつの間にか寝てしまったらしい。 私はさっき見た夢について、思い出そうとした。 昨夜の女性をママと、さっき新しく出てきた男性をパパと、呼んでいた。 そして、見覚えがないが懐かしいと感じたあのリビングは、きっと私が住んでいた家なのだろう。 夢の中で食べていたケーキも、どこかで食べたような味だった。 私がこの家に来てから食べたケーキは、全て生クリームののった白いケーキだった。 あんなケーキは見たことも食べたこともない。 でも、夢にしては食べた時の味も、舌触りも、鮮明に覚えていて、逆に気味が悪い。 (私、変だ。今までこんなことなかったのに。一体、何が起きているの……?) 考えているとだんだん寒気がしてきた。私は両腕で肩を抱くと、本を置いたまま、自分の部屋に駆け込んだ。 布団に入ると、頭まで毛布をかぶった。 (このまま全ての記憶を取り戻したら、私はどうなるの……? 私は、わたしは、ワタシハ……) やがて日が暮れて、父が帰ってきた。 私は具合が悪いと言って、布団から出なかった。 何度か父が様子を見に来たようだけど、私は布団から顔も出さずに寝たふりをしていた。 (記憶を全て取り戻したら、私は父さんと別れて本当の両親のもとに帰らなくてはならない。本当に、このまま父さんと別れていいの……? 父さんは私の本当の両親が見つかることを望んでいる。私は父さんに何も恩返しをしていない。 このまま出て行くのは嫌だ。 父さんのために何かやってあげたい。 でも、本当の両親が見つかったら、もう、父さんはここには置いてくれない。 私をここに置く理由はないから……) 私はいつの間にか濡れていた目元を拭うと、机の上から、名札を手に取った。 名札を持ったまま、私は一晩中、布団の中で考えていたのだった。
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