第1章

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次の日、私は家の呼び鈴が鳴る音で、目が覚めた。 時計を見ると、お昼をいくらか過ぎたところだった。 父は今朝、私の部屋に顔を出した後、仕事に行ったのだろう。 曖昧なところからすると、父が出かけてから、少し眠ったのかもしれない。 夢を見た昨日よりも、頭がスッキリしているような気がする。 「はぁーい」 私は手櫛で髪を整えつつ、玄関に出て行った。 玄関を開けると、白衣を着た一人の男性が立っていた。片手には往診カバン、一方の手には秋の花で作られた花束を持っていた。 「こんにちは。先月の定期検診以来だから、一ヶ月振りだね。元気にしていたかい?」 「先生……」 男性ーー先生は、爽やかな笑顔で言った。 そういえば。今日は月に1度の、定期検診の日だった。 「お父さんから元気がないと聞いたときは、心配したよ。でも大丈夫そうで良かった」 これは誕生日プレゼントね。と、先生は私に花束をくれた。 「有り難うございます。ご心配をお掛けして、すみません」 私は花束をもらうのが初めてだったこともあり、緊張しつつ言った。毎年、お菓子やぬいぐるみをくれるのに何故、今年は花束なのだろうか? 先生は玄関で靴を脱ぐと、迷わずに居間に行った――「勝手知ったる他人の家」とは、よく言ったものである。 先生は父の古い知人である。 今はこの近くの診療所で働いている。 私がこの家に来た日から月に一度、様子を見に来てくれる。 また記憶がなく、勉強で難儀している私の面倒も見てくれて、感謝してもしつくせない――今も子供扱いするのが、たまに傷だが。 「じゃあ、今日も検査から始めようか」 居間に医療道具一式を広げると、先生は聴診器を手に取った。 一通りの検査が終わると、いつものように勉強を見てもらった。 勉強まで見てもらって、いつも悪いと思っているが、先生は「そんなことは気にしなくていいよ」と言ってくれるので、罪悪感を持ちつつも、一人で勉強していてわからなかったところを、つい聞いてしまうのだった。 「そういえば。お父さんから、一昨日、ケーキを食べたって聞いたよ。 どうだった? 初めてのホールケーキは」 私は先生の言葉に、ドキッとした。 そして昨日見た夢を思い出して、冷や汗が背中を流れた。 これらの夢が何を意味するのか、今は考えたくもなかった。 「どうしたの。顔色が悪いようだけど……」
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