第1章

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(確かにそんなことを言ったけど、まさか本当に買ってくるなんて……) 私は父と食後にさっき買ってきてもらった生クリームのホールケーキを食べながらぼんやりと考えていた。 ホールケーキといっても二人用の小ぶりのものらしく思っていたものほど大きくはなかった。 だけど、甘い物が苦手な父はさっきから少しずつしか食べていないので、ケーキはまだ半分以上残っていた。 「ねぇ、父さん。また、私が拾われた時のことを聞いてもいいかな」 「どうしたんだい。今までだって散々話したじゃないか」 「でも、また聞きたい。どうしても気になるの。自分に何があったのか、自分ではよくわからないから……」 「拾われた時ね……。前にも話したと思うけど、今から十年前、妻の墓参りの帰りに墓地の中をフラフラ歩いていたところを見つけたんだよ。 近くのお寺の住職さんに相談して、警察に連れて行ったけど、記憶がなかったのもあって何も情報がなかった。 とりあえず、仮の戸籍を与えて施設に入れられそうになったのを引き取り、ご両親が迎えに来られるまで育てることにしたんだよ。結局、何も情報がないまま、今日まで一緒に暮らしているが……」 「どうして、私の本当の両親は名乗り出たり、探したりしないのかな」 「それは……」 父は答えにくそうに顔を曇らせた。 思えば、私はいつも、この質問をして父を困らせていた。 (最低だ。私。何もわからないのを父さんに当たって。今日だって、仕事を早く終わらせて警察に新しい情報を探しに行っただろうに) 私は居間に置いてある父の鞄を盗み見た。 鞄のポケットからは「警察×」と書かれたメモが見えた。 「ごめんなさい。困らせるつもりはなかったの。ただ、気になって……」 「いや。当たり前のことだよ。自分の本当の両親が気になるのは」 父は笑って答えたが、私の心は晴れなかった。 私はそんなモヤモヤした気持ちを払うために、ケーキを口いっぱいに頬張った。
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