第1章

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夜、お風呂から上がった私は濡れた髪を拭きながら、自室の机に飾っている、やや茶色く古惚けた名札を眺めていた。 この名札こそ私が父に拾われた時、唯一持っていた名札である。この名札が無ければ、私は自分の名前さえわからなかったのだ。 これを持っていれば本当の両親が迎えにくるのではとないかと思い、今も大切に持っているが……。 (もしかしたら、本当のお父さんとお母さんは私のことを捨てたのかもしれない) 十年前から密かに思っていた本音が、胸の中に溢れてきた。 この十年間、ずっと待っていた。 いつの日か両親が迎えに来るのではないか、と。 両親に会えば、なぜ、私の記憶がないのかわかるのではないかと考えていた。 でも、両親が迎えに来たら、今度は父と別れなくてはならない。 私は本当の両親と父、どちらが大切か選べなかった。 本当の両親も大切だが、父も今まで見ず知らずの私を育ててくれた親も同然の大切な人だ。 「私を最初に発見した」 ただ、それだけの理由で私を十年間育ててくれた。 けれども、本当の両親を長いこと待つ間に、いつしか思うようになった。 ――両親が迎えに来ないのは、私がいらないからではないか。   私は頭を振ってこの考えを追い出した。 (もう、考えるのはやめよう。明日も早いし、今日はもう寝よう) 私はタオルを椅子にかけると、布団に入った。 天井を見ながら、ふと思う。 いっそのこと、本当の両親は私を捨てたということにしてしまおうか。 そうすれば、こんなに悩まなくてもいいのに、と。 そんなことを考えているうちに、いつしか、眠りについていた。
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