第1章

9/17
前へ
/17ページ
次へ
私は朝食を作りながら、昨夜の夢について考えていた。 夢の中で視界が真っ白になった後、私は飛び起きるように目覚めた。 目が覚めた時、強烈に後悔と、懐かしい気持ちが芽生えた。 自分自身が覚えていなくても、体が、五感が、覚えているような、そんな感じだった。 「おやっ。お魚のいい匂いだね。でも、焦げた匂いもするような……」 「あっ」 夢について考えているうちに、コンロで焼いていた魚が焦げていた。 私は慌てて火を止めた。父に言われなければ、今朝の朝食のおかずがなくなるところだった。 「有り難う。父さん」 私は父に礼を言った。父はさっき起きたばかりのようで、髪に寝癖がついたままだった上、寝間着姿だった。 「いつもと違って元気がないけど、何かあったのかい?」 「実は……」 私は躊躇いつつも、父に昨夜の夢について話すことにした。 たかが夢。と、思わなくもない。 しかし、父にこれ以上迷惑をかけたくないと考え、包み隠さず話そうと思った。 「そうか……。そんな夢がね……。もしかすると記憶を取り戻してきたのかもしれないね」 「記憶を……」 父は顎に手を当て頷きながら言った。 私はそんな父の言葉をどこか遠くで聞いているようだった。 「17歳というのは外面だけでなく、内面も大きく成長する歳だ。大人になるにつれて、少しずつ記憶を思い出してきたのかもしれないね」 父はそう言って笑ったが、私は不安な気持ちで一杯だった。 もしも、このまま全てを思い出したら〈今の〉私はどうなってしまうのだろう。 でも、それ以上に心配していることがあった。 ――全てを思い出したら、もう父と共に暮らすことができないかもしれない。 そればかりが頭の中を巡った。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加