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「ゴホッ……ゴホッケホッ……」
昼を少し過ぎた時刻、ユーバ村にある古びた家の一室のベッドに横たわり、苦しげな咳を吐き出す少年。
齢六歳にして彼の体は原因不明の病に犯されていた。
彼の顔色は病人のそれにふさわしく青白く、この辺りでは珍しい濡れ羽色の長い髪と深い紫色の瞳のせいで、青白い肌が一層白く見える。
その瞳は、力無くようやっと開いているといった感じで、ベッドの傍らに立つ初老の男性を見上げていた。
男性の紺色の髪には白髪が混ざっているが、明るめの青い瞳のせいか老けては見えず、グレーのスーツがよく似合っている。
暫くして、少年の咳は治まったものの、まだ荒い呼吸を溢している。
「今回も薬はいいのかい?」
「……ハァハァ……はぃ。」
初老の男性の問いかけに、少年は力無いが迷い無く答えた。
問いの内容から察するに、この男性は少年の主治医なのだろうが、薬を処方しないのはおかしい。
少年の容体は確実に薬を必要としているのだから。
しかし、少年の方も不満を抱いているようには見えない。
不可解な会話の原因は、少年の家庭環境と病の特徴に起因している。
少年の家は貧しく、薬は高価だ。
しかし、それだけならば、彼の親は無理をしてでも少年に薬を与えただろう。
それにも関わらず、少年が薬を貰わないのは、彼が自らいらないと言ったからであり、認められているのは彼の命に危険が無いからに他ならない。
少年の病は珍しいものではあるが、全く確認されていないわけではなく、わかっていることもある。
この病は突然肺が異常収縮を起こすというもので、発作の度に呼吸が自由にならない苦しさと、異常収縮による肺の痛み、発熱を引き起こす。
酷い発作のときは、肺が傷つき喀血を伴うこともある。
しかし、治療法は解明されておらず、出来ることは、薬で痛みを緩和させることと、発熱を押さえることだけなのだ。
捕捉だが、この病は発作を起こしさえしなければ、健康な人と同じ生活が送れる。
過度な運動をしたとしても、発作を引き起こしたりはしないし、逆に安静にしていても、発作を起こすときには起こすのである。
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