第1章

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「すけりん」  偶然、並んで歩いていたみたいで、  うちは半歩、横に近付き、  Vサイン。  友達面してしまう。  この四月から、同じ大学なのを  うちは忘れていた。  取り囲まれた観客から、 「横の子、誰?」  って顔をされてしまう。          4 〈幽霊話より怖いぞー〉  非正規雇用の末路って、  趣旨の講演のチラシの横、  うちは掲示板に貼る。 〈料理が好きな人を求む〉  その旨はこうだった。  ファンドで出資金を募り、  関大料理学部を作る。  アルバイトじゃなくて、  みんなで作るお店、  じゃなくて、  学部としての料理部をイメージ。 「お店は実習の場」 〈料理が好きな人を求む〉  うちは掲示板の前の  芝生に横たわっては  読む人を待つ。  うつらうつら。  急降下のトンビに  せっかくの夢をさらわれる。  追っ掛けようと思いつくまで、  時間の掛かるうち。          5 「ふわふわイメージだけど、  中浜って結構、  ちゃっかりしてるもんねぇ」  苦手な加奈子が寄ってくる。  苦手だと知ってて、寄ってくる。 「お惚けキャラの不思議ちゃん、  なのに結構、計算してるのよねぇ」  エジプト生まれなのに、  エジプト人じゃない加奈子。  うちはどんな顔を  すればいいのか困る。 「よ、無視しないでよ」 「してないけど」 「でも、したそうじゃない?」  うちの戸惑う時間と  加奈子の詰め寄ってくる間に、  つむじ風が起こる。          6  友達を作るように  クリームコロッケを作る。  味見をしなくても  いい出来なのが匂いで分かる。          *  駆け出したくなり、  駆けっこのポーズ。 「いいのが出来ましたよって」          7  飛行船なんて、 「見るの久しぶり」  うちは口を開け、見上げてしまう。  キャンパス上空を  ふんわりふんわり。  よだれを拭ってから、  見上げたまま、  飛行船をとぼとぼ追い掛ける。  日の暮れる京都まで来ていた。 「なんてね」  うちは早回して、  関大キャンパスに戻る。  でないと、息ができない。          8 「今日はいいことばっかだったから、  ここらでつまずいとこ」  うちは学生会館の  屋上庭園へ階段を  わざと踏み外す。 「これでチャラにして」  と神様にお願いする。  雲がその形を変えて、
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