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第五部
1.
段ボールの上で目を覚ましたぼくは体を起こすと、大きく伸びをし、日の光に照らされる四つの死体に視線を向けた。ガラクタみたいだと思った。例えるなら、マネキンのめちゃくちゃに壊れたのよりも、もっとひどい有り様だった。なんというか、ああ、人間って、こんなにひどくなるものなのか、自分でそれをしたくせに、そんなことは棚上げにして、ぼくは目の前の死体に対してそんな感想を抱いていた。
ぼくはその理由に対して、段ボールの上で膝を抱えながらほんの少しだけ考えてみた。多分、おそらくだが、「人間だから」こそこんなに無残に思えるものじゃないかと思った。例えば、猫のぬいぐるみがボロボロで捨てられているのはどこか物悲しいものがあるが、猫の死体は、無惨だ。とても見られたものではない。同じように人間も、多分、「生きているからこそ」、笑って、泣いて、楽しんで、悲しんで、苦しんで、悩んで、動いて、生きているからこそ、壊れてしまった有様は元々動いていないものが壊れるよりも、ずっと無惨なものになってしまうのではないだろうか。昼間は生徒が賑わう学校が、夜には得体の知れないなにかが潜んでいそうなほど不気味な空間になるように、「ある」という印象が強いからこそ、命が「なくなってしまった」死体は、無惨に見える。それも、下手な粗大ゴミよりも、ひどい有り様なのだからなおさらだ。
ぼくは立ち上がり、その無惨な死体達を眺めると、手を合わせ、目を閉じ、供養するように頭を下げた。別に、品野達を殺したことに対してなにか思ったわけじゃないが、命のなくなった死体が、あまりにも無惨だったから、ぼくはその無惨さに対して両手を合わせて供養した。品野達の事は恨んでいたが、「体」は「心」を乗せている、ただの乗り物のようなものなのだから、服や靴に罪はないように体という「もの」には罪はあるまい。二ヶ月前、ぼろぼろに成り果てたぼくの「財産」達に「ありがとう」と言ったように、「ひどい真似をして済まなかったね」と、ぼくは死体という「もの」に向かってそう言った。
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