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2.
ぼくは駅に辿り着くと、人ごみの中に立ち、恭也が来るのを待っていた。街はたくさんの人で賑わっていた。会社に向かうサラリーマンもいるし、アイスを食べながら歩く中学生もいる。うらやましいと思った。アイスを友達と食べる中学時代も、高校時代も、大学時代もぼくにはなかった。会社に行くこともなく、恋人を作ることも、結婚することも、子供を作ることもなく、「人を殺した人殺し」として死刑になって、死んでいく。『理解」はしていたが、やはり、悲しい。人はいつか死ぬという事実を理解していても悲しいと思うのとおんなじだ。
ぼくの人生は、いったいどこで狂ったのかなあ。
どうにか出来たことなのかなあ。
それとも、人はいつか死ぬのと同じぐらい、どうにもならないことだったろうか。
少なくとも、もうどうにもならないこと、それだけははっきりと分かっている。
「岬」
名を呼ばれ、ぼくは振り返った。恭也が、二十四歳の恭也が、結婚して、父親になったと言う恭也が、すっかり大人になった顔でぼくのことを見つめていた。ぼくは十四歳からここにタイムスリップしてしまったような気持ちで恭也の顔を眺めていた。それならどんなによかっただろう。タイムスリップしてきただけなら、それならどんなによかっただろう。それならぼくは、人生をやり直すことは出来る。取り戻せる。全部なかったことに出来る。
けれど、時間は戻らない。起こったことはやり直せない。人生をやり直せるなんて、そんなの嘘だ。それは人生を「立て直している」だけだ。津波や台風で壊れてしまった家を立て直すように、壊れてしまった人生を、残っているものや新しいもので「立て直している」。だから、なにかしら残っているものがあれば、それを土台に「立て直せる」。でも、なにも残っていない、なにもない、恨みしか残っていない、だからぼくには、「立て直せない」。
恨みしか残っていないぼくの人生は、どうやったって「立て直せない」。
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