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恭也と遊ぶのは楽しかった。浩太君にはどのぬいぐるみがいいだろうと歩いて回るのも楽しかったし、景品が取れた時には「よし!」と両腕を突き上げた。「子供じゃあるまいし」と恭也は笑ったが、子供だ。ぼくは子供だ。今日一日だけは子供なんだ。今日一日だけはたくさん笑って楽しんで、「生きててよかった」と心から思って、そうして、それから、死んでいきたい。「ぼくはこの日のために今まで生きてきたんだ」と、心の底から言って死にたい。九十九パーセントが不幸でも、一パーセントだけ幸せがあれば、ぼくは「幸せだった」と言えるから、だからお願いだ、ぼくはいるかも分からない神様に願った。どうかぼくに、今日一日だけは、「生きててよかった」と思えるぐらいの幸せを、一日だけでかまわないから、どうかぼくに許してください。
ぼくはようやく、可愛らしい犬の大きなぬいぐるみを手に入れると、「浩太くんにはこれでいいかな」と恭也にたずねた。恭也は十分だと言い、ぼくらは今度は奥さんへのおみやげに花屋に向かうことにした。「いいよ花なんて」と恭也は言ったが、「ぼくがあげたいんだ」と恭也に言った。親友とこうして並んで歩いて、ゲーセンで遊んで、親友の奥さんに花束を贈ってあげられる。
ああなんて、なんて今日は、幸せな一日なのだろう。
ぼくは奥さんに白い花束を買ってやると、店先に並んでいるたくさんの花を指して「これ全部ください」と店員に頼んだ。いぶかしげな顔をする恭也の隣で、店員さんに金を渡しながら「散らかしてしまう」ことを謝る。
「すいません、すいません、後でちゃんと片付けますから」
ぼくは店員に向かって何度もそう頭を下げると、意味が分からないという顔をする恭也と店員に背を向けて、腕に抱えた大量の花を空に向かって放り投げた。道行く人が足を止め、みな一様に空を見上げる。ぼくも青い空に舞い上がる、たくさんの花を眺めていた。
綺麗だと思った。空に舞い上がる花も、その上に広がる青い空も。目を痛める程に眩しくもない、気が重くなる程に汚くもない、霞んでも、ただ青いだけでもない、どこまでも綺麗な空。
ぼくは視線を下に降ろし、恭也に向かってニコリと笑った。恭也は呆然とぼくを見つめると、頭をかき、ため息を吐きながらぼくの方へと近づいた。
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