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「おまえなあ・・・映画のワンシーンじゃないんだぞ。どうすんだよこれ」
「片付けるよ。散らかしたんだから当然だ。店員さんすいません、ほうきとゴミ袋貸して下さい」
「おいおいおい、マジでやるのかよ!大変だぞ」
「え、恭也も手伝ってくれるんでしょう?」
ぼくがそう言って恭也を見つめると、恭也はぼくを凝視した。頭をかき、「お前なあ」と盛大にため息をつく。
「なんていうか、性格変わったんじゃないのか?昔はもっとおとなしいヤツだったような気がするが」
「性格が変わったわけじゃないし、おとなしかったわけでもない。『大人しく』していただけだよ。大人のフリして、ただ我慢をしていただけだ。本当はわがままだって言いたかったし、甘えたりだってしたかった。やりたいことをやりたかったし、嫌なら嫌だと言いたかった。ただそれが、ぼくには許されるような環境じゃなかった、だから我慢していただけなんだ」
「岬・・・」
「よくテレビで『とても大人しい子でした』、『そんなことをするような子には見えませんでした』なんて言うけれど、それって本当なのかなあ。言うじゃないか。『仏の顔も三度まで』って。嫌な事や悲しい事や辛い事や理不尽をどんなに耐えて、我慢しても、永遠に我慢は出来ない。なぜなら『心は傷つく』から。少なくともぼくはさ、ずっと我慢は出来なかった。十年ぐらいが限界だった。十年うずくまってるだけで限界だった。そのまま、死ぬことも考えたけど、恨みを飲んでは死ねなかった。だって、恨みは『心の傷』だ。毒なら飲んで死ねるけど、傷痕は、飲めやしない。死にも出来ない。せいぜい化膿して、膿が出て、そして、腐っていくだけだ。それを飲んで死のうなんて、最初っから無理だったんだ」
「岬・・・お前、いったい何を言っているんだ?」
ぼくは散らかった花を片付ける手を止めて、恭也の顔を凝視した。恭也がつけた「心の傷」を、ぼくは恭也に向かってさらけ出した。
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