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買ったのか。
それにしては紫なんて珍しい色を選ぶと思った。
大和には少々大人っぽ過ぎる色だな。
「何回電話しても出なかったから、何かあったのかと思ったよ。取り敢えず何もなくて良かった」
珍しく笑みを浮かべた裕太が、大和の頭をポンポンと叩く。
こいつ、大和には頻繁に笑いかけんのかよ。
俺には全然笑わないくせに...!
「...ごめん、心配してくれてありがとう。ちょっとトイレ行きたくなってさ...」
と、どうやら腹の調子が悪い様子。
見えてしまったのは掌に残る、くっきりとした爪の跡だった。
.......力み過ぎたのかな、後で正露丸渡さなきゃ!
その日は無事に帰宅し、帰るなり大和に部屋の掃除を手伝って貰った。
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本格的に冬へ近づいてきたのだろう、風が冷たい。
日に日に元気が無くなる大和の姿を見て、此方も酷く心配をしてしまう。
記憶力が悪く、いつも5W1H(いつ、どこで、だれと、なにを、どのように)を覚えていない彼が何かを思い出し事あるごとに溜息を吐く姿は、当然胸が痛む。
夏以来、若干痩せたようにも見えた。
そりゃそうか、肉を食べないんだもんな。
「...大和、今日も元気ないね」
「ん...。峯、御前が元気付けて来いよ。一緒にパンケーキ食った仲だろ?」
「あー、そんなこともあったね。大和は覚えてないだろうけど」
ポケットに手を突っ込んだ裕太は、元気のない大和の所まで歩み寄り、飴玉を置いて戻って来た。
彼なりに、元気付けたつもりなのであろう。
裕太にしては良くやったと思う。
二人で帰る準備をしていると、目の前にひょっこりと顔を出したのは、まさかまさかの姫神教授だった。
「えっ!?姫神...せんせ!」
「やあ、久し振りだね」
「ひ、久し振りもなにも...外国へ飛び立ったんじゃなかったんですか!?」
「それがねぇ、あっちの手違いで予定が狂ってしまったんだよ。再来週になった」
疲れた顔をして失笑した彼は、参った、と言うかの如く肩を竦めた。
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