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壇上で講義をする一人の男は、此方に鋭い視線を向ける。 何故そんな目で見られているか...と言うと、その男に見惚れていたからだ。 「高下...私の話はそんなに退屈か?」 めめめ、滅相も御座いません! ブンブンと頭と手を左右に振る俺を見て、一際蔑んだ様に見据えるその男は佐伯利孝【さえき としたか】教授。 現在31と言う若さで教授をしておられる凄い人だ。 それに加えて、高そうなスーツと腕時計、革靴はきっと...いや絶対高級ブランドの物だろう。 身長が低い訳でも、頭が悪い訳でも...運動が出来ない訳でも、お金が無い訳でも無い。 所謂人生の勝ち組と言う奴だ。 もともとこんな星の元に、美しい顔で生まれ育った事が既に勝ち組なのだが...。 「よろしい、では講義終了後...私の元に教材を持って来るように。いいな?」 念を押されて頷いた俺に、隣の友人はケラケラと笑った。 「...深瀬。君はレポートを高下の倍書いて来い」 「ふぁ!?」 「嫌なら黙ってろ」 しゅん、と肩を落とした隣の犬は深瀬咲夜【ふかせ さくや】 脱色して白に近い髪をした中学からの友人は、長身で申し分ない程のワンコキャラだ。 「おい...峯、貴様は何をしにここへ来たんだ」 飛んできたチョークがつむじにクリティカルヒットして、それまで寝ていたらしい峯裕太【みね ゆうた】が欠伸をしながら起きる。 「...うっす」 周りの生徒の視線が痛い。 と言うよりも、凍えきっている空気で寒い。 ここは正に極寒の地。 佐伯教授の機嫌を伺うようにして、生徒は忙しなく視線を動かしている。 呆れた佐伯教授は、もう何も言わなかったが今日の彼は最高に機嫌が悪い。 講義が終わり、大きなダンボール箱を抱えて持つ俺の姿を峯は無表情で写真に収め帰って行った。 ムカつく...。
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