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「ひ、姫神せんせ!?」 「なんだい?それ。もしかしてバレンタインか!いいなぁ...私も深瀬からのチョコ欲しいなぁ」 「今すぐ作ります!長旅でお疲れでしょう、お座りになって!」 一年振りの姫神てんてーはいつになくジェントルマンで、柔らかな笑みを浮かべている。 が、ちょっと疲れている顔がえっろい。 「作んなくていーし、座らせなくていーから...」 頬を膨らませた裕太が、俺の肩に顎を乗せてきた。 ほんの少し可愛いって思う。 「あ、深瀬。お土産だよ」 「え、お土産!?そんな、お気遣いして頂かなくても...!」 「いいのいいの、大した物じゃないから」 キャリーケースを開けた彼が取り出したのは大きな丸いボックス。 なにやら甘い香りがする。 「何これ!」 「アメリカのキャラメルポップコーンだよ、峯と二人で食べなさい」 「俺!キャラメルポップコーン!大好きです!!」 両手で大きなボックスを受け取り抱き締めると、隣に座っていた裕太が腰に手を回してきた。 「...初めて知った」 あ、拗ねてる。 俺の服に顔を埋めてグリグリしてくる。 「じゃ、私はこれから挨拶回りに行かなきゃならないから帰るね」 「もう海外へは行かないんですか?」 「うん。また明日から普通に大学だよ。ポップコーンの御返しはホワイトデーに宜しく」 あれ? と頭を傾げた俺とは裏腹に、裕太はかなりの威嚇をニコニコした姫神先生へと向けた。 ーーーーーーー 「へぇ、上手く行ってんだ。意外だな...誰とも長続きしなかったのに」 「まーね。案外、俺みたいな奴が本気になったら......」 ボードの真ん中に狙いを定め、ダーツを勢い良く投げ飛ばす。 それは小気味良い音を立てながら、中央に刺さった。 「凄いんだよ」 「何が」 「んー...愛情表現、とか?」 バーカウンターで酒を飲む佐伯利孝に向かって目を細めると、この男は鼻で笑った。 「裕太...御前の愛情表現は重そうだよ。深瀬を押し潰さないようにな。もし他の奴に手を出されても知らないから」 馬鹿げたことを言う利孝に、今度は此方が笑い返してやる。 「そんなことしないさ...。自分より大切な人で、狙っていた時から俺のモノだからね」
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