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「自分で言うのも何ですが...私に落ちない男性なんていませんでしたよ?」
「世の中には例外もいるってことだね。君がそんなんだと弟さんが悲しむだろう」
部屋を出て行く気配のない女を横目に着替え、白衣を羽織った。
「そうですね、私の様な人間があと二人程いますから」
それは辛い。
深瀬の弟さんの幸福を祈ろう。
患者のカルテを持ち、午後の回診へと足を運ぶ。
午前中に回診したグループから資料を受け取ると大体を把握してから彼女の手元へと返した。
「あ!先生!」
「やあ、こんにちは。調子はどうかな」
一見元気そうに見える子供達も、深刻な病気を抱え入退院を繰り返している。
中には子供の入院費を稼ぐ為に昼夜働き詰めで、疲れ老いた両親もいた。
どうにかならないものか。
入院費、治療費は馬鹿にならない。
ましてや、子供の辛そうな姿を見ること自体が御両親にとっては胸を痛める一つの理由であろう。
「今日は大丈夫だよ」
「そう、それは良かった。胸が苦しくなったら、直ぐにそこのボタンを押すんだ。いいね?」
満面の笑みを浮かべて頷いた男の子の頭をくしゃくしゃと撫で、部屋を後にする。
両親が付きっ切りで看病してくれる訳にいかない子は、身体に異常が無い場合でもナースコールを押す時があった。
そんな時は、決まってこう言うのだ。
怖い、とーーー。
確かに...病院なんて子供にとっては怖い場所以外のなんでもない。
肩を震わせて泣く子の隣に添い寝をしてやると、安心し切った顔をして眠る。
そんな姿を見れば、此方も悲しくなってしまう。
早く病気を治して親の元へ帰してあげなければ、そう思うが現実はそう甘くなかった。
「以上で午後の回診は終わりです。お疲れ様でした」
「ああ、お疲れ様」
深瀬は深々と一礼して部屋を出て行く。
冷め切った珈琲を一口飲み、患者のカルテを作成していると突然部屋にノックが響いた。
「はい、どうぞ」
「黒田せんせ、アイス食べましょう」
うぜぇのが来た
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