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朝比奈皐月 その男が俺に懐いて来たのは今から二年前の冬になる。 庭に出て雪を触っていた子供へ笑顔を向けた瞬間、疾風を巻き起こし片膝を付かれて手を握られた。 なんだ、このキザ男は。 「...綺麗だね、その白い肌に黒い髪が良く映える。結婚してくれ」 と、熱烈なプロポーズを受けて盛大に引いた覚えがある。 世の中は広いから、こう言った人間がいてもおかしくは無いと思うし寧ろ全然有りだが...自分はどちらかと言うとノーマルだし、男を選べと言うのなら正直佐伯さんがモロタイプだ。 ...顔と身体だけ、だが。 性格はサディストが見え隠れしているので、自称Sな俺とは折が合わないであろう。 そしてこの朝比奈と言う男は紳士的な振る舞いと甘いマスクが奥方に大人気。 それに加え、顔だけでは無く彼のセクシーな唇からは甘い言葉が次々と溢れるのだ。 三十路を過ぎて結婚に焦る看護婦達が、毎日目をギラギラと光らせ朝比奈を物色しているのを見ると、いつかは此処が戦場の地となってしまうのでは無いかとヒヤヒヤしている。 それも一人の男を巡って。 それ程に彼は魅力的なのだ。 はたから見ればいい男、好青年で優しい紳士的な奴だもの。 人気があって当然なんだよ...。 「ああ...君は本当に可愛らしい。日の光に当たったことがないのかと思う程、白くて無機質だ」 だが俺は、こいつのこう言う所が嫌い。 うぜぇ。 睨んでいると朝比奈は眉を下げ溜息を一つ。 そして 「可愛い......!」 死ぬ程抱き締められた。 「苦しい、死ぬ」 「このまま殺して一生一緒にいたいなぁ...」 シャレにもなってないよ、バカ比奈。 彼のしっかりした身体を押し返し咳払いをした俺は、この部屋を出て行く様に施す。 俺は仕事が無いからいいとして、貴様は西棟の院長だろうが。 こんな所で油売ってていいのか、と言う意味を込めたんだがどうやら彼には伝わらないらしい。 「朝比奈先生...仕事しなさい」 「最近ね...俺の必要性を考える様になったんだよ」 おい、何座ってんだ。 居座るつもりか。
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