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「...と、言いますと?」
どうせ話さないと帰らないし、さっさとブチまけさせて無理矢理帰らせよう。
買って来たらしい駅前の高級アイスを惜しげも無く食べ始めた彼には、溜息すら出そうになる。
ほんと、何しに来たんだ御前。
「いやほら...あまりにも有名で腕がいい医者ばっかりいふかあ、おえもちょっほへ」
「後半なに喋ってるか分かりませんでしたよ」
カルテに文字を記入し終えると、バインダーに挟んでデスクの角に置いておく。
それを見た彼が、手招きで革張りのソファーまで俺を誘った。
渋々足を運び、嫌な顔をしながら近付いたら強引に隣へと座らせられてギュッと肩を抱かれる。
「劉生...」
「何です?顔が近いですね、殴りますよ」
「俺の夢を聞いて貰ってもいいかな」
「は?...いや、まあいいですけど」
マスカットのアイスを俺に手渡し嬉しそうに話す姿は、何だかムカついた。
だって
「俺の夢は、君と二人で小さな病院を開くことだよ。そこで沢山の人を一緒に救えたら、それ以上の幸せは無いな...」
なんて…こんなこと言われたら、どんな反応していいか分からなくなるから。
嫌い、嫌いだ。
「劉生、少しでも考えてくれる?」
「......貴方と二人でなんて、絶対に御免ですよ」
「ふふ...そう言う所も好き」
調子が、狂う。
マスカットのアイスに銀のスプーンを突き立て、口へ運ぶ。
ひんやりとしたアイスは唇を濡らし、口内を冷たくした。
「おいし?」
「.....うん」
マスカットを好きって言ったの憶えてるんだ...こいつ。
熱烈なプロポーズを受けた後、強制的に食事をさせられた。
その時に適当に言った好きな果物を、こいつは忘れていなかったらしい。
口に入れた瞬間、マスカットの爽やかな甘みと香りがいっぱいに広がる。
「美味しいです、朝比奈先生」
「そう、それは良かった」
身を乗り出し、目を細める朝比奈。
冷えた唇に、彼の温かな唇が重なった瞬間だった。
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