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「す、すみません...っ!」
「ん?いいよ...」
ゆっくり身体を起こした彼が、その甘いマスクで微笑む。
薄明るい室内で背伸びをする姿に、なんだか違和感。
「...パジャマ」
「あ、これ?似合うでしょ」
黒い良質な生地のパジャマを身に纏った私生活感バリバリな姿を見たのはこれが初めてだった。
「何にせよ、まだ起きるには早いから...もう少し寝てなよ」
「うん...」
ベッドに身体を沈め目を閉じる。
さらりと髪を梳く、大きな手が心地いい。
...........ってあれ。
「何で俺とあんたが一緒に寝てるんですか!...ふぇっ」
「おっと!」
ベッドから転げ落ちそうになった俺の背中に手を回し、危機一髪で救ってくれた朝比奈は「危なかったね」と笑いながら口にする。
そのままぎゅうっと抱き締められ額にキスを落とされた。
「...ありがと、ございます」
「いいよ。可愛い声も聞けたし」
ああ、死んでしまいたい。
すっかりと目が覚めてしまった俺に付き合い、彼がホットミルクを淹れてくれる。
寝室のベッドで朝日が昇るのを見詰めながら熱々のホットミルクを飲んでいると、何だが幸せな気分になった。
隣に嫌いな奴がいても。
「劉生、今日は何処へ行こうか」
「俺仕事ですよ。行くなら一人でどうぞ」
「有給休暇を出しておいたから君もお休みだよ?三日程ね」
...........は?
「有給休暇?誰の」
「劉生の。温泉でも行くかい?今の時期に温泉行ったらさぞかし気持ちいいだろうな。よし、温泉へ行くぞ。早速準備しよっか」
信じられない、この男。
上機嫌で鼻歌を歌う朝比奈を他所に、俺は深瀬へと電話をかける。
確認の為、だ。
一応俺のスケジュールを把握している彼女のことだから「何をなさってるんです、早く出勤なさって下さい」と言ってくれる筈!
「深瀬?俺...黒田だけど今日の回診何時からかな」
「おはようございます。勘違いされてる様ですね、今日から三日間は有給休暇を取られたじゃないですか」
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