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「よし! おじさんの店までひとっ飛びだ!」
首にぶらさげていたハルの頭に少しばかり大きすぎるゴーグルを嵌め、操縦用のレバーを力いっぱい引き寄せた。
途端、ぶわりと風が吹き上がり、モータービートルの身体が宙に浮いた。
周囲の芝生が円くざわめく。
「離陸も問題無し! よしよし、いい子いい子」
嬉しそうに機体を優しく一撫ですると、ハルは再びレバーを左右複雑に一気に動かす。
ビンビンと羽音を鳴らしながら、機体は想像以上に軽く丘を街の方へ向けて下ってゆく。
「上出来だよ!! さっきはお前をポンコツだなんて言ってごめんよ、お前はまだまだポンコツなんかじゃない、現役さ!!」
上機嫌でハルはさらにサイドレバーを引き上げ、高度を上げてくゆく。
ぐんぐん地上から遠ざかり、街の外れに辿り着く頃には時計台の鐘が遙か下に見える。
「あ! あれはマリアンだ!!」
時計台の下で鐘を鳴らす少女の姿を小さく見つけ、ハルは今度はレバーを引き下げ降下させた。
「マリアン!! おはよう!!」
「まあ、ハル!! おはよう」
驚いたように、そばかすの少女が時計台の窓から手を振る。
「今からパン屋のおじさんのところへ、こいつを届けに行くところなんだ!!」
「そう! 気をつけてね!!」
「うん! またね!!」
微笑みながら手を振るマリアンに大きく手を振り、今度は真っ直ぐパン屋へと方向転換した。
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