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「はあ……」
ハルは、遮熱用の古びた顔面保護マスクを外しながら溜息を洩らした。
「どうした、そんな溜息なんかついて」
祖父の代からのお得意さんでもある、街のパン屋の主人がハルの上から小太りの身体で覗き込んだ。
身に着けたいかにもパン屋らしい前掛けのエプロンには、あちこちに小麦粉がこびり付いている。
きっとついさっきまでパンの生地を作っていたのだろう。
エプロンを取り忘れてくることから、この主人がよっぽど忘れっぽいことが伺える。
「ぼく、今溜息なんてついた?」
パン屋の主人は丸っこい目をますます見開いてて、驚いた顔でハルを見つめる。
丸い顔が際立って丸く見える程に。
「あ、ああ」
パン屋の主人の、戸惑ったような返事と同時に、それと重なるようにして凄まじい鉄の音を響かせて、修理工場の立てつけの悪いドアが勢いよく開かれた。
驚いて振り向いた二人のすぐ後ろで、開け放たれたドアがゴトンと鈍い音を立てて固い土の床上に転がった。
「おい、じいさん!!」
そう言って、転がったドアを跨ぐようにして、小柄なスーツの男が修理工場の中に足を踏み入れてきた。
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